一度相談に来てみたかったと言うので何かと思ったら、タムシだった。去年の夏、お尻にタムシが出来、医者に3ヶ月くらい通って治ったらしい。そんなに難しいのかと思って話をしている内に、付いてきた奥さんが自分の爪を見せて説明を始めた。主人の爪の水虫に似ているがそれではなくて、何万人に1人という珍しい菌にやられていると言っていた。菌の名前を覚えていないから何とも言いようがないが、そうなった原因を教えてくれた。  夫婦で10年前に大阪から引っ越してきたらしい。牛窓は温暖な気候だから、この夫婦のように退職後移住してくる人が多い。彼らが買って住んだ土地は、オリーブ園の中腹道にあり、自然の真ん中に住んでいるようなものだ。去年の夏、ご主人が1メートルくらいの蛇を捕まえたのだが、蛇がご主人の腕にからまりついて締めに入ったらしい。ご主人は懸命にふりほどこうとしたがふりほどけないので、奥さんを呼び、植木ばさみで切ったそうだ。切ってからもすぐにはとれなかったというからすごい筋肉だ。その3日後、突然奥さんの右掌の皮がずるっとむけた。それと同時に右手の甲に、蛇の頭の形の湿疹が出てそこから手首の裏まで紫色で蛇の胴体の形が連なったそうだ。まさに腕を巻くように蛇の形をした湿疹が出来たそうだ。その後湿潤(ジュクジュク)し始めて皮膚科に行ったのだが、医者も皮膚病の状態に驚いたそうだ。何とか通って治ったそうだが、2本の指の爪だけが分厚くなって治らないそうだ。その爪を正面から見ると、まさに蛇がこちらを向いているように見えると言っていた。その夫婦は、ある宗教団体(有名な大きな団体)に属していて、去年拝んでもらったときに、成仏していない蛇のせいだと言われたらしい。勿論蛇の出来事など全くその時は話題にも出していなかったそうなのだが  手の甲に出来た蛇の形をした湿疹は見ていないから何とも言えない。手の指の爪は、僕には蛇がこちらを向いているようには見えなかった。寧ろ、爪白癬か尋常性乾癬の爪形のように見えた。見る者によって一つの事象がこんなにも違って見える。掌がむけたのは蛇の脱皮のせいだと言うが、僕は何か接触皮膚炎を起こすものがあったのだろうと考えてしまう。鍬でも使ったのだろうと想像する。その鍬に何かの薬品が付いていたとか。職業柄非科学的なことは信じないので、こういった場合は本来ならとことん原因を追求する。ただ、今回は奥さんの相談ではないので追求はしなかったけれど。  おもしろおかしく取り上げれば、バラエティー番組のネタにでもなりそうだ。ごく普通の熟年夫婦だから、作り話ではない。本気で信じていて話してくれた。僕のこの辺りのドライさにはずいぶんと我ながら助かっている。職業にも役立っているかもしれない。割り切れるところではとことん割り切って、そうはいかないところではとことん湿っぽく行く。だからもっているのかな。