箇条書き

 牛窓にも訪ねてきてくれたし、一緒に備中温羅太鼓の公演を聴いたりしたので、色々なことが手に取るように分かる子だ。2週間毎に電話もくれるから、声質や話し方で、彼女の様子も分かる。  彼女がメールで、薬を飲み始めてからの体調の変化を箇条書きにして教えてくれた。と言うのは、電話では自分の想いを伝えたくてどうしても、困っていることが優先的になる。いやいや、ひょっとしたらそればかりかもしれない。ある日ふと、彼女が気が付いて、最初に僕に依頼してきた時の文章と現在の体調を比べてみたらしい。すると11項目に改善が見られていたというのだ。マイナスのことばかり僕に伝えていたというのだ。  ずいぶんと体調が良くなっていることに気が付いたのはよいことだ。体は部分の集合ではない。血液や神経やリンパで繋がっている有機体だ。だから完全に独立して病気にもならないし、完全に独立して回復もしない。連携しながら全体が病み、全体が回復する。箇条書きに客観的に整理したことで、彼女は一歩退いて自分の体調を眺めることが出来るようになるだろう。治療に力みが消えることはとっても良いことだ。頑張って頑張って、力んで毎日を戦っている子だから。  今日あるお母さんから、お嬢さんが1人住まいをしたいと言い出したと相談があった。大学入学後、登校できないかと心配したけれど、もうほとんど完治が見えてきた。お母さんは心配だが、1人住まいしたいと言うくらい自信が出来たのだ。僕は嬉しかった。お腹が治って、1人の立派な大人にこれから脱皮していくのだ。本人は勿論、お母さんと幼い妹の3人で牛窓を訪ねてくれた。丁度僕の体調が悪いときで最高のおもてなしが出来なかったのだが、この結果にいたって、僕自身もほっとしている。妹さんが、大きなリュックを背負って、海外旅行にでも行くのかといういでたちがとても可愛く印象的だった。  過敏性腸症候群の僕の処方もずいぶんと変化してきた。色々な出会いが、僕に力を与えてくれる。僕が与えるよりはるかに大きなものを、彼女たちから頂いている。彼とうまくいっているかな、バイトを始めたかな、授業をさぼったかな、色々な風景を想像しながら薬を作る。1日があっという間に逃げていく。