海ブドウ

 牛窓中学校の修学旅行は沖縄だそうだ。一昨日帰ってきたらしいが、その中のある生徒がお土産を買ってきてくれた。今朝、そのお母さんがことづけてくれた。いくら小遣いを持っていけるのか分からないが、僕のために割いてくれた気持ちが有り難い。  僕が甘党なのに、和菓子系があまり得意でないことを知ってか知らないでか、黒糖パイというのを買ってきてくれた。それともう一つ「海ブドウ」なるもの。こちらが問題だ。名前も聞いたことがないし見るのも初めてだ。正直グロテスクに見えた。緑色をしたたこの足に見えた。まるで小さな吸盤が延々と続いているようだった。お母さんに「気持ち悪い」と言ったら、それがいかに有名で美味しいか説明してくれた。食べ方も詳しく教えてくれた。昼ご飯に食べるように言われたが、そんなに食べたくは思わなかったので、夕食に頂いた。教えてもらったように、水洗いして、添付のタレで食べた。おそるおそるの一口で海の香りがし、海藻特有のぬめりも少なく、意外と食べやすかった。僕も海辺で育っているので、第一印象さえ克服すれば、海のものなら何でも大好き。最初は1本をつまむようにして食べていたが、そのうち数本を口の中に入れるようになっていた。傍で食べていた娘がやはり、沖縄に旅行に行ったとき食べて美味しかったと言っていた。  夕方、遠くの方から電話を頂いた。僕の声を聞きたかったと言っていた。聞かない方が良かっただろう。恐らく想像していたのとはかなり違っただろう。僕によそ行きはないのだ。せっかくのお土産を「気持ち悪い」と言ってしまう程度なのだ。そのお母さんと平生交わしている会話と何ら変わりない言葉で初めての方と話した。ただ、そのお母さん、子供達の幸せを願うと同じように、初めての方の不運からの脱出のお手伝いが出来たらと思う。近くても遠くても、その気持ちに差はない。  落ちぶれるように田舎に帰ってきたが、そのことを後悔したことは一度もない。生活の糧を得るために、ただ勉強していれば良かったのだから。あれほど苦手だった漢方薬の勉強を。中学生から土産を頂くなんておまけも付きだしたのだから、もう少しの間、泥臭い仕事を続けようと思った。