ドミノ倒し

 自分の町を久しぶりに海から眺めた。それも過去のように前島に渡る漁船やフェリーではなくヨットだったのでゆっくりと眺めることが出来た。珍しく息子が孫と嫁さんの家族を伴って帰ってきたので、妻がヨットを手配したらしい。  今日の牛窓は、観光客で一杯だった。目立ったのは家族連れだった。高年齢の家族、幼い子供を連れた家族、現役2世代家族、まちまちだったが健全な家族の風景が観光地を活気づけていた。陸にいたら暑いくらいだったが、沖に出ると帆を一杯にふくらます潮風はひんやりとして気持ちよかった。10年に一度眺めるかどうかのアングルは、山肌に広がる新しい建物を印象づけた。都心部から移り住む人がモダンな家を建て、風景の香辛料になっている。リマーニというホテルに泊まっている観光客と同じヨットに乗せてもらったが、皆とても心地よさそうに風の音を聞いていた。まさにこの海で育った人間にとっても癒しのミニ航海だった。  この数年、僕の薬局でのジンクスがある。過敏性腸症候群の相談に来た人達と僕の家族が、日が沈む頃フェリーで前島を往復する。片道5分くらいの距離なのだが、フェリーの甲板から眺める夕陽がとても綺麗なのだそうだ。その夕陽を見た人がほとんど治っているのだ。僕は実際見たことがないのだが、とても綺麗らしくて、全員が感動してくれている。実際、日本夕陽百景にも選ばれているらしい。新しい家族と楽しくのんびりと過ごしながら、僕は今度訪ねてくる人がいたら是非ヨットに乗せてあげようなんて考えていた。都会の人や、山間部の人には確かに珍しい体験になるだろう。  ジンクス通りだと、僕の漢方薬が効かなくても、フェリーや夕陽が助けてくれる。ヨットによるクルージングならもっと助けてくれるだろう。何の力でもいい、治ってお腹のことなんか気にせずに人生を謳歌してくれればいい。1人が幸せになれば、きっと回りに幸せのドミノ倒しが展開されるだろう。小さくてもいいから、ゆっくりでもいいから、終わりのないドミノ倒しが。