メロンパン

 職業柄か、土地柄か分からないが、しばしば野菜を頂く。農家の方が取れたてのを持ってきて下さる。ありがたく頂戴して食卓に上げるのだが、こちらはお礼をする物を持っていない。そのために、中元、歳暮のタイミングに合わせて心ばかりの品物を買ってお礼をすることにしている。  日曜日を利用して岡山市のスーパーに買い物に行ったら、丁度玄関である家族にあった。良く知っている家族だったので挨拶をしたが、その後何となく連れられている小学生の女の子にパンを買ってあげようと思った。最初から自分のパンは買うつもりだったので、一緒にパン売り場に行くことにした。手を差し出すとその女の子も手を出して、まるで親子のように手をつないで歩いた。小さい手だが、柔らかくてふっくらした感覚が妙に懐かしかった。ある年齢までしばしば経験した感覚だ。その頃はとても幸せで、人生を懸命に生きる理由を毎日確かめられていた。わき目もふらずただひたすらに愛すべき二人のために生きた時代を手の感覚で思い出した。成長し自立して生きる二人に、もはや大きい僕の手のひらは必要ない。   その女の子とのつかの間の親子ごっこは、メロンパンのように甘かった。でも手を放しお別れした後は、フランスパンのように歯ごたえのある日常が待っていた。信号が青に変わったら、まっしぐらに薬局に向かって帰った。