アーサービナード

 御存知の方も多いと思うが、米国人なのに日本語で詩を書く人がいる。実際に僕は彼の詩を読んだことはないが講演ならたくさんユーチューブで聴いた。詩人らしくウェットに富んだ話で、難しいテーマを分かりやすく理解させてくれる。昨日の朝刊で彼のことが特集されていたから、その中で面白いところを抽出して披露する。

携帯電話を持ったことがない。「僕なりの抵抗、拒否運動なんです。米国人もそうだけど、日本人は生まれた時から広告を浴びせられている。昨日久しぶりに電車に乗ったら、気持ち悪くて。今は中(なか)づりだけでなく、画面で広告を流し、僕が一切興味のない、買いたくもない物を見せられる」。ここで言う「広告」とは宣伝だけではなく、わかりやすくまとめ上げられた「ニュース」も含んでいる。

「そもそも来日に意味があるかを冷静に考えた方がいい。トランプがハワイから米軍の横田基地に降り立ち、銀座でステーキを食べ、ゴルフをしたことに意味なんてあるのか」 アホノミクスとトランプ大統領の親しげな映像が流れたが、パフォーマンスに意味はない。トランプが去った後、今度は米軍と自衛隊が合同演習をして『北朝鮮をけん制』と報じていたけど、けん制できたかなんてわからないよ。それを『けん制』と言い切るのは広告でしょ。僕らは思考停止のまま、そんな結論をのみ込み導かれていく」。 どこへ。「日本はやはり属国なんだ」という達観へ?

 経済が日本語をどう衰えさせるのか。「来日以来、経済を語る言葉が劇的に英語、カタカナばかりになった。『先物』くらいは残っているけど」 デリバティブといった用語だけでなく、日常会話でアウトソーシングやインバウンド、デフォルトといった言葉を当たり前のように私たちは使う。経済だからいいかと思っているが、「米国の先住民の言葉が絶滅に向かったのは、貨幣から時間の表記、契約まで何もかも英語を強いられたから。

日本語が追いやられるだけでなく、人が自分の言葉で考えなくなるという危惧だ。

アホノミクスに対する日本人の反応にも属国らしさが表れているという。「安保法制などで国会を軽んじ、内閣で何でも進めようとするアホノミクスに国民がさほど抵抗しないのは、みな日本が米国から独立していないと思っているからですよ。アホノミクスはチェーン店の店長みたいな人だから言っても仕方ない、言うなら本社、アメリカだと思っているんです。プー沈らが日本の外交にあまり興味がないのも、日本を独立国家だと思ってないからでしょ。

日本語延命のもう一つの条件、民族のアイデンティティーもずいぶん衰えたとみている。10年ほど前、ある文字を見て、はっとした。「和のえほん」「和テイスト」。自分が日本に来た1990年代、普段使われる「和」といえば和の精神、調和が先に来たが、いつの間にか「日本」という国そのものを指すことが多くなった。ここは日本なのに、なぜあえて「和」と銘打たねばならないのか。日本人は自分たちの文化を「よそ者の目」で見始めたのでは。そんな仮説を立てると、いろんな事が納得できたという。

 着物ブームは一見、グローバリズムへの反動、伝統の見直しに映るが、あくまでもエキゾチシズム(異国趣味)であり、コスプレに近い感覚。外国人が見て喜ぶ東洋趣味に近い感覚になっている、と。「一方でハロウィーンが定着し、政府は家畜番号みたいなマイナンバーという言葉を喜んで使う。この前、区役所で、ホワッツ・ユア・マイナンバー(あなたの私の番号は何番?)って英語で聞かれて、本当に吐きそうになったよ」

 そして、文部科学省による小学校の英語教育。「英語を学ぶのはいい。でも僕が見るに、日本語は英語より劣っているという印象を子供たちに無意識に植えつけている気がする。文科省の英語教育は中高を見ればわかる通り悲惨だから、二流の英語人が育っていく。日本語力が弱まり、きちっとした言葉を持たない民があふれる。そんな愚民政策に対する議論がもっとあっていいのに、本当に少ない。

要は、自分たちの国を自分たちで好きなようにつくろうという真の意味での独立を日本人は諦めているのではないかということだ。「じゃあ、どうすればいいのか。そう言うと、みな足し算で考えるでしょ。アホノミクスじゃないけど、対案を出せと。でも引き算でいい。政治宣伝から普通の広告まで、垂れ流される映像、情報を拒否し、スマホも持たない運動を僕は広げたい」。そして静かに考えようと。

 アホノミクスと言う言葉は原文では勿論使われていない。僕が気分が悪いからわざわざ直した。こうした文章に触れるとなんだか希望が出てくる。今はあまり使われなくなったが、一時勝ち組負け組と言う言葉で人々を分断した時代があった。今は多くの人たちが負け組に移行しているからこの言葉が必要なくなったが、負け組の人たちに対する優しいまなざしとエールが彼の講演では聞こえてくる。そうした立ち位置の人が減ってきている。是非ユーチューブで彼の話を聞いてほしい。

この場を借りて・・・12月13日は人間ドックに行きます。当日は不在のため漢方相談は出来ません。御配慮ください。

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