今日は得した。  夕ご飯にいつもの中華料理店に寄ってラーメンと餃子を注文した。僕が唯一何の抵抗もなく入っていけるお店で、もう20年は利用していると思う。と言うことはそのお店も20年以上つぶれないで、と言うより20年前より繁盛して支店も出している。何が魅力かというと当然美味しいことと、スタッフの礼儀正しさだろうか。若い店員さんばかりだが、マニュアル的でないのがいい。 いつもなら数分もすれば注文の品が出てくるのだが、今日は何故か時間がかかった。おかしいなと思案していると若い女性の店員さんが申し訳なさそうに、機械の故障で餃子が旨く焼けなくてもう一度挑戦するから遅くなると言った。どのくらいかかるのかと尋ねたら10分くらいと言う。僕はラーメンを先に食べるから、食べ終わった頃出してくれれば充分で何時までも待つよと言うと、安心したように厨房に帰っていった。するとまもなくラーメンが届き、豚肉のしゃぶしゃぶ風のサラダ(食べ物のことはさっぱり分からない、本当は正式な名前があるのだろう)が添えられていた。「餃子とラーメンを同時に出せなくてすみませんでした、お詫びにこれをお召し上がり下さい」と店員さんがサラダを添えてくれた理由を教えてくれた。こんなトラブルが滅多にあるとは思えないが、こちらの気分を害することもなく、だからといってへりくだることもなく、自分の言葉で微笑みをもって対処したのが驚きだった。僕が得をしたのは、サラダではない。何処に行っても心がこもっていない言葉を機械的に返されるだけの買い物にうんざりしているから、もうそれは一種の恐怖にもなっているが、自分の言葉をとっさに使うことが出来た若い女性と接することが出来たことが得をしたのだ。まだまだ若い人も大丈夫と思えたことが得だったのだ。大切なことが世代で受け継がれていることを確認し、まんざら失望ばかりする必要がないことが分かったことが得だったのだ。  と言いながら帰り際、あのサラダはいったい何円だったのかとメニューを捜すところが僕の成長しないところかもしれない。