果実

 自分が休みを取らされ、心療内科の受診を促されるほど弱かったことを受け入れることが出来ないみたいだった。弱音を家族に吐くことが出来ないから、出勤する振りをしていた。上司に叱責されても、部下にそれを転嫁するのは価値観が許さなかった。月曜日の会議は針のむしろで、会議が終われば大声を上げ叫びたい気分。スポーツ万能だから上司もきっとその行動力、判断力、部下の掌握力を見込んだのだろう。期待に応えようとするほど自分を追い込んでいく。酒の力は正比例しない。  どこでもある話を僕の前でする。日本中で頑張って頑張り抜いている人が陥るトラブルをまさに体現している。生の声は僕の心に重く響く。僕自身も数年前経験したことで、手に取るように分かる。分かるから解決方法も分かる。  出来るだけ多く口から出すこと。強がりではなく、弱音を吐きまくること。回りを巻き込んで知恵をかりること。インフルエンザにかかり40度の発熱状態と考えて物事にあたること。体力が充実しているときだけ善行を心がけ、体力がないときは善人を気取らない。  体調が良ければ強気になり、疲労が蓄積され体調が悪ければ誰だって弱気になる。この誰もがってところが大切だ。自分だけが特別ではない。みんな同じ弱い人間だ。なんとか、なんとか暮らしているのだ。精一杯、精一杯で暮らしているのだ。時には躓いて当たり前、時には転んで当たり前。どうせ凡人には当たり前しかないのだ。居直って当たり前の人生をそれなりに消化するしかないのだ。背伸びしても届かない果実なら無理に登ってまで盗む必要はない。どうせ数日待てば八百屋の店頭でたたき売りの憂き目にあっているのだから。