離島

 どの局でもやたらニュースでやったからだろうか、薬を送ってもらえなくなるのだろうかとの問い合わせが今日は多かった。もっと早くに来るだろうと思っていた問い合わせだが意外と来なくて、今日に殺到したのはやはりマスコミの力だろう。 一度でも僕から薬を送っている人は心配しなくていい。特例として継続服用者として認められた。又離島の人達も今まで通り送れる。ただ、さすがに離島に住んでいる人には僕は一人も送っていないから、この特例は僕には関係ない。僕が漢方薬を送っている中で最も多いトラブルは過敏性腸症候群だから余り離島では発症しないだろう。どちらかというと都会の人に多い疾患だ。都会で暮らす戦士達に田舎の薬草が効くのは自然の道理かもしれない。  荒れ狂う波しぶきに洗われる離島の人に僕の薬は必要ないが、荒れ狂う人波にもまれる心の離島にすむ人達に僕の漢方薬は役に立てる。地理的な離島より、社会から疎外された心の離島にすむ人達に偉い人達は気を配って欲しかった。家族や友人、あるいは近隣の人達にも完全に心を開けない人達のことを想って欲しかった。ごく普通のことが出来にくい人達のことを想って欲しかった。誰を恨むでもなく、自分を卑下する人達のことを想って欲しかった。遠慮がちに通りを横切る人達のことを想って欲しかった。春をもたない人達のことを想って欲しかった。枯れた井戸になおつるべを降ろす人達のことを想って欲しかった。何も言わず立ち去る人達のことを想って欲しかった。  強くて幸せな人達が住む街にも声なき声が夜ごと公園のブランコを揺らす。耳をすまさなければ聞こえない声が風になる。