黒光り

 別に見たくはなかったが、見せてあげましょうかと純朴そうな男性が言うので、いらないとは言えなかった。ベルトコンベアに足を挟まれて、足の甲の部分がバラバラになり、ベルトで運ばれていったらしい。肉片と骨を集めたらしいがそれは使い物にはならなかったらしい。結局自分の大腿部の骨などを使って復元したらしいが、それを見せてくれるというのだ。僕は足首から先がかなり無くなっているのかと思ったが、ほぼ正常な形で残っていた。ただ皮膚も移植したから、いくつかのパーツを縫い合わせたようになっていた。これなら見るに耐える。  この男性は岡山県広島県の県境あたりの方で、何と原付バイクで来てくれた。2時間以上かかったらしい。事故にでも遭ったらと心配になるが、色々な成人病を重ね持っていて、それも又恐ろしい。とても口べたで、はにかみ屋で、失礼だが見かけもパッとしない。恐らく病院の先生も十分な時間を取って対処してくれていないのだろう。病院にかかっていながら検査値の数値も驚くほど悪い。養生をしているのかと尋ねたら、むちゃくちゃだった。分かっていて度胸だけで過ごしているのか、理解しづらいのか僕も最初は見当がつかなかったが、そのうち適切な指導を受けていないことに気がついた。わざわざ漢方薬を交通事故のリスクを負って取りに来なくても、生活習慣を改善すればかなり解決できる。  仕事中の事故で、果たして労災の認定を受けたのか心配になった。だって、痛くて気を失いそうだった?って尋ねたら、痛かったけど仕方ないからなんて誰を責めるではなく、不運を嘆くではなくとつとつと答えるのだ。こんな人が時にいる。滅多いないが楕円状に広がる存在感は、不器用に生きる人達を優しく覆う。流ちょうな言葉も洗練された身のこなしも、どんな立派な肩書きや経済力もかなわないくらい意図されない無垢な包容力。  同じ空間にいて、繕うために言葉を紡がなければならないような気配りは全く必要ない。責めることも責められることも苦手な男性のヘルメットが際だって黒光りしていた。