専門

 ある男性が「○○先生が漢方のことはヤマト薬局さんが専門だからヤマト薬局に相談してみてと言われた」と状況を説明してくれた。処方箋を良く持ってくるからそれなりに親しい間柄なのだが、薬局で何かを買って治すタイプではないし、まして漢方薬なんて一度も出したこともない。処方箋で薬をもらっている傍で、漢方薬を買っていく人を何人も見ているだろうが、会話の話題には出すが決して薬を作ってとは言わない。我が家のように何処の医院にも属していない薬局では、病院派と薬局派が混在することになる。病院派はただ薬を取りに来るだけでクールだし、薬局派は昔からの知り合いだから、いっぱいしゃべって帰る。病気で来ていても明るい。自分で何とかしようとする派でもあるから、力が入っている。  その男性は大病院で漢方薬を出してもらったのだが、飲むと必ず不快症状が起こる。いたるところが痛くなると言っていた。その理由をかかりつけの医師に尋ねたそうだが、分からなくて僕に振ってきたのだろう。僕はその不快症状が漢方薬のせいでないことを知っている。何かのせいにしなければならないその男性の心の弱さを知っているから。率直にそう言ったら納得していた。又安心もしていた。  20年前、まだ漢方の勉強を始めた頃、その医師を訪ねたことがある。その時に漢方薬について馬鹿にされたことを覚えている。20年経ってようやく認められたのかとその患者さんの言葉から思った。僕は決して漢方の専門でもなにでもないが、あれだけ沢山の人に使ったら、その様に誤解してくれる人もいるのかと思った。田舎の薬局に専門なんていらない。心優しい人達が健康になってくれればいい。舞台装置も演技も肩書きも何もいらない。ただ一つ、治ればいい。