無難

 足が萎えて旨く歩けないし、家事も出来づらくなってきているというおばあさんを11月から世話をしている。10年以上前、漢方薬であるトラブルを解決したことを思い出して又やってきてくれた。2週間分渡したのに数日経って電話があった。何でも血圧が上がったから、漢方薬のせいだろうかと心配になり、かかりつけのお医者さんに行ったら、漢方を止めるように言われたらしい。足の調子はどうですかと尋ねたら、軽くなって台所に少し長く立てれるようになったと言う。お医者さんに止めろと言われたが、足に未練があったので折衷案で半分に量を減らして飲むことにしてもらった。すると血圧について何も言わなくなった。足は結構それからも改善して喜んでいた。  数日前、3回目の薬を渡した。半量にして自分で飲んでいるから手間がかかり気の毒だと思い、最初から半量で薬を作ってあげた。すると、肛門から出血した。赤い血が便器を染めたという。1日は様子を見たが翌日も出血し、便に黒い血のかたまりがついていたという。漢方薬のせいだろうかと言うから、出血を止める漢方薬はあるけれど、出血させるようなものはないと答えた。「様子を見てみましょうかな」と穏やかにおばあさんは言うが、僕は便にまとわりついている黒い血のかたまりという表現が気になり、お医者さんに行ってもらった。するとその方が一人暮らしだと言うことを主治医は良く知っていて、念のため検査入院してもらいましたと連絡をくれた。今日主治医から連絡があり、おばあさんは胃潰瘍だった。脳血栓予防で飲んでもらっているアスピリンが原因でしょうと言っていた。本来解熱鎮痛薬のアスピリンは、血液を固まりにくくする性質があり、血栓予防に汎用されている。ただ、鎮痛薬は胃の粘膜を犯すから、潰瘍になりやすい。丁度出血する頃漢方薬を飲んだことになる。お医者さんに行ってもらっていて良かったと思った。又主治医が大きな病院に送ってくれて良かったと思った。  幸運にも、漢方薬を使っていて大きな副作用には滅多に遭遇しないから、今回のことも違うだろうなと思っていた。他の原因で助かった。何かあるとこちらが薬に対して臆病になり、効かなくてもあたらない薬と言う選択をしてしまうのだ。それなら薬局である必要はない。ドラッグや通販で十分だ。夕方、薬局に入って来るなり「すごくうれしい」と言ってくれた方がいる。顔や手が自然に震える人で、大学病院で検査までした人だが、2週間でかなり良くなっていた。無難な効かない薬より、効くことが想像できる薬がやはりいい。