気がかり

 同じように色が浅黒く、背が低く、独特の顔つきの人達だから、フィリピンの男性達だとすぐ分かった。10人くらいの集団が全員初対面だった。1時間足らずの間一緒に同じ空間にいたが、その中で一人だけ何か特別な人のように見えた。他の人達と同じようには見えなかったのだ。同じように腰をかけ、同じように振る舞っているのだが何かが違う。服装も他の人達と何も違いない。なのに、僕はその人が気になった。  自己紹介をミサの後神父様が促して、その集団の人が順番に始めた。英語だからほとんど分からないが、玉野に荷物を運んできたというような話で、ほとんどの方はクルーと自分を紹介した。ところがその人は自分をキャプテンと言った。そうか、船長と船員が教会のミサに来たのだと分かった。もう1週間滞在するから、来週も会えるというようなニュアンスのことを何人かが言っていた。(間違っているかもしれないが)  船の中での階級や秩序を僕は知らないから、どのくらいの権限があり責任を背負っているのか分からない。しかし、今の肩書きを手に入れるための勉強や訓練が、彼から溢れる独特の雰囲気を長い時間をかけて醸造したに違いない。何の分け隔てのない教会の中だから、みんなの中に収まっていたが、築き上げてきたものは隠せない。謙遜な中から溢れ出るものは美しい。これ見よがしばかりが目に付く昨今だから、僕の勝手な気がかりが今日は僕を少しだけ気持ちよくさせてくれた。