小手先

 「ほう、そう来たか」「そんなら、こう行かしてもらおうか」「ああ来れば、こう。こう来れば、ああ」
 何のことか分からないかもしれないが、幼い頃、漁師の真似をして覚えた将棋の、掛け声だ、いや独り言だ。と言っても大人の真似だから、多くの子供たちが同じことをつぶやきながら縁台で将棋を指していたことになる。
 60年前の日本は、漁師町だからかもしれないが、子供の娯楽が将棋だった。小さな町にも、将棋を指せる子がうじゃうじゃいたわけだ。藤井聡太君みたいな子を輩出することは出来なかったが、戦争を知らずに生涯を終えることが出来る世代の原風景が、そこにはあった。
 そんなことを考えながら藤井聡太君の特集を見ていて驚いたことがある。それはある棋士との戦いの中で、1時間半以上考えていた時に、なんと37手くらい先まで読んでいたと言うのだ。いったいどういうことと、想像すらできないが、ほとんどパソコンの世界だ。僕らは次の一手しか考えられないが、次の一手次の一手の次の・・・と重ねていけば一体いくつのパターンを考えるのだろう。2者択一でも、紙に書いていって途中であきらめるほどの矢印が必要なのに。将棋の場合2者択一どころではない。
 正直、そういった作業をすることを考えるだけで辛くなる。マラソンレースで、スタート地点のスタジアムを出ない間に棄権するようなものだ。能力が違い過ぎて、手も足も、嫌味すら出ない。あの純朴そうな表情を見せつけられると、関係ないのに応援までしそうになる。
 37手先などもってのほかで、小手先だけで生きていた少年が行き着いたのは王将のチャーハン。「どこが違うんじゃ!」

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