廃車届

 そうかあの日、僕は燃えるゴミを隣町のスーパーの駐車場に設置されているステーションに捨てるために車を走らせようとしていたのだ。
 ところが数百メートル走ったところでエンジンが止まりかけ、辛うじて空き地に入れた。2回目だから慣れたものですぐにレッカー車を手配してボルボ岡山まで運んでもらった。
 それから結局何の音沙汰もなく、しびれを切らせて今日廃車届に必要な書類と印鑑をもって会社に行った。懐かしい僕の車が駐車場に止めてあったが、まだ7年目だから結構綺麗で、出来ればあと4年乗りたかった。結局原因を突き止められないまま3か月が過ぎたが、車検も会社が受けていて、ひょっとしたら格安中古車で売り出すことも考えられる。車検が通ったのだから公道を走れるはずだから。ただ僕はもう無理だ。2回走行中にエンジンが止まりかけるような経験をしたら怖くて乗れない。もし岡山駅近くの交通量が多いところであの状態に陥ったら、パニくってしまうだろう。その恐怖感から携帯電話を買ったくらいなのだから。一生持つつもりもなかったのに。
 妻の軽四自動車を借りて荷物を取りに行ったのだが、車に置き去りにしていたものは正に夏真っ盛りの小物ばかりだった。3か月のタイムスリップだ。段ボールを集めてひとくくりにしたものが二つ、新聞紙の束、キンチョール 蜂用のスプレー、麦わら帽子、草刈の時に石が顔面に飛んでくるのを防ぐ顔用のプロテクター、ブルーシートが2枚。それからベトナム人を連れていくときの必需品。嘔吐したときのビニール袋、乗り物酔い、鎮痛剤、眠気覚ましのアンプル、急な体調の悪化のために起死回生の牛黄、疲れに滅茶苦茶効くアンプル、アンメルツ。
 僕は、車には安全性以外、何も求めていないから、ゴミ屋敷ならぬごみ車だ。僕がほとんど未練を示さなかったから、整備士が安心したのか、終始ため口だった。受付の女性やセールスマンが洗練され過ぎているのとは対照的だった。原因を見つけられずに御免なさいくらい、笑いながらでも言えばいいと思ったが、おそらくもう訪れることもない会社だからか、それを聞くこともなかったことに不快感はなかった。死なない車から、殺さない車にシフトすべき年齢でもあるので。

 

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