健気

 来日したのが秋だったので、この子を初めて観光に連れて行ったのは、江戸時代の大名庭園である近水園の紅葉だった。他の3人は紅葉の美しさに興じて自撮りを果てしなく繰り返していたが、この子だけは江戸時代に建てられた屋敷を興味深く見続けていた。
 自撮りの対象でしか周りを見ないベトナム人女性たちの中では極めて稀有な印象だった。その後、四国の金毘羅様や京都のお寺などを優先して案内したが、今日コロナで滞在期間が延びて4年ぶりに帰国することになった。
 控え目で物静かな女性だったが、懸命に家族に仕送りをしていたのだと思う。経済的な余裕があれば彼の国でも多くを学ぶことが出来ただろうが、若くして工場労働者になったので、特にベトナムは毎日長時間労働だから、学ぶ機会や体力はなかっただろう。
 帰国してまた以前の職場に復帰するらしいが、労働時間が一気に毎日4時間増えることになる。「それが普通だから大丈夫」と健気に答えるが、一度8時間労働を体験すれば、12時間から14時間の労働が如何に過酷かわかるだろう。ただし、それに耐えられなくなった帰国した女性たちをいまだ知らないから、身に着いた忍耐で容易に順応するのだろう。
 コロナのせいで、後半の2年間は、日本の文化に接してもらうことは出来なかった。僕のおせっかいも不発気味だったが、文化財の前で立ち止まり見入っていた姿に、帰国してからの人生の密度の濃さを願う。

 

 

安倍元首相に“おまえが語るな”批判の大合唱! フジ番組でウクライナ問題にペラペラ持論
 日刊ゲンダイDIGITAL 2022/02/28 11:45
あれほど“対ロシア外交”で失敗しておきながら、どういうつもりなのか。安倍元首相が27日、フジテレビの番組に出演し、ウクライナ問題について偉そうに持論を述べた。案の定、ネット上では批判が噴出している。
<首相在任中「ウラジーミル、シンゾウ」と仲の良さをアピールして、プーチン大統領の増長に加担した責任を果たすべきなのに、まるで他人事ですね>──と、おまえがウクライナを語るな! の大合唱だ。
番組内で「核シェアリング」について論じたことに対しても、<ダメだこの人。ニュークリア・シェアリングのことちゃんと調べてないでしょ?>と批判の声が上がっている。
安倍氏は、ウクライナがロシアに侵攻されたのは核を放棄したからだ、という趣旨を語り、NATO加盟国が採用している「核シェアリング」について日本も議論すべきだと強調してみせた。日本の国是である、非核三原則「持たず、つくらず、持ち込ませず」のうち“持ち込ませず”を放棄すべきだ、という訴えだ。
現在、核シェアリングは、NATOに加盟するドイツ、ベルギー、イタリア、オランダ、トルコの5カ国と核保有アメリカとの間で行われている。
しかし、非核三原則を捨て去って大丈夫なのか。軍事ジャーナリストの前田哲男氏はこう言う。
「核シェアリングは、アメリカと欧州のNATO加盟国が冷戦時代から取っている体制です。核を保有していないNATO加盟国にアメリカの核を配備している。欧州各国のパイロットは核投下の模擬訓練も受けています。ただし、核を管理する権限はアメリカにあり、有事の時、使用するかどうかの決定権もアメリカにあります。“シェア”した国が勝手に使えるわけではありません。レンタルとは違います。問題なのは、NATOの核シェアリングは、“核不拡散条約(NPT)”の締結前から存在していたということです。すでに存在していた体制だったからNPT締結後も認められている。日本の場合は、NPTに署名した後に実施することになり、NPT違反に問われる可能性があります。抑止力が高まる可能性はあるでしょう。しかし、中国や北朝鮮、ロシアといった周辺国を刺激するのは間違いない。韓国が核保有に動く可能性もあります。北東アジアの緊張が一気に高まる恐れがある。それだけにアメリカが“核シェアリング”を認めるかどうかは分かりません」
安倍氏一派は、ウクライナ危機に便乗して“敵基地攻撃”や“原発推進”を進めようとしている。火事場ドロボー的なやり方は、ロクな結果にならない。安倍元首相はいつ、大親友のプーチン大統領を説得しに行くのか。