土着

 日曜日以外、僕が薬局の外に出るのは、夜明けとともに、そして日が落ちて暗闇に乗じての2回だけだ。どちらも中学校のテニスコートに出かけるのだから、牛窓の様子を直接見ることは少ない。休日にはほとんど、必要最低限の用事のために岡山に出かけるのだから、牛窓のことを目にすることはひょっとしたら滅多にないのかもしれない。
 なぜこんなことを考え付いたのかと言えば、昨日漢方薬を取りに来た若い男性が「最近、牛窓は観光客が多いでしょう。関町の方は駐車場に困ってますよ」と教えてくれたからだ。
 この関町と言うのは、半世紀前までは牛窓町の中心地で、古い港町そのもののようなところで、僕が生まれ育った町だ。現在は昔の面影が残っていると言うことで、県外から来た芸術家たちや食べ物屋さんが店を構え多くの人を引き付けている。
 どんな宣伝につられて人がやって来るのだろうと若者に尋ねてみると、SNSなどの言葉が出てきたが、漠然とした理解しかできなかった。僕ら世代は新聞折込などを想像するが、そういったことはもはや死語みたいだ。
 一応瀬戸内市の観光を背負っている牛窓地区だから、何か手伝えたらと思うが、どこもそうかもしれないが他所からやってきた人たちのほうが、知恵も行動力もある。せめて足を引っ張るようなことはせず、新しい土着に増えてほしいと思う。何を隠そう我が家も戦後のどさくさに紛れた土着なのだから。

 

 


アベノミクスの7年半で日本は「米国並み」から「韓国並み」になった
日本の地位は、円安政策を取り続けたアベノミクスの期間に急激に低下した。それに対して韓国では、2000年から20年にかけて自国通貨建て1人当たり名目GDPが1386万2167ウォンから3733万3541ウォンへと2.69倍にもなった。13年から20年だけをとっても、25.4%増加した。これによって、韓国は世界経済における地位を高めたのだ。韓国の1人当たりGDPは 直近では世界で29位(日本は第24位)だ。こうして「日本がアメリカ並みから韓国並みへ」という変化が起きた。「韓国並み」が続けばよい。しかし、これまでのトレンドが続けば、韓国と日本の差は拡大していくだろう。日本は近い将来に台湾並みになり、マレーシア並みになる。そこで止まらず、インドネシア並み、ベトナム並みになるのもそう遠い将来のことではないかもしれない。(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄