台風

 おかげで台風の風の音にも雨の音にも脅かされずに朝を迎えられた。
 いつものように朝のウォーキングにも出かけられた。1回分儲けたような気分だ。
体育館の駐車場にたくさんの枯れ葉が落ちていた。とくに巨木の下に集中していて、その場所だけは紅葉の時期に落ち葉が敷き詰められた小道を彷彿させた。
 気温の高さとその光景のミスマッチで、一瞬のためらいもすぐに解決したが、完全に茶色に変色した葉っぱは、その形状からしてモミジそのものだった。こんなところにモミジの木があるはずがないと思いながらも、しゃがんで確かめてみると、モミジのような形ではあるがモミジのように鋭くはなかった。こんなところにモミジと見間違うような葉を蓄えた木があり、それに20年近く気が付かなかったんだと、自分の鈍感さにあきれた。ただ、この気づきこそ台風の置き土産だ。もっと風情を理解しろと、吹き返しの風が囁く。
 帰宅して興味があったので、あの巨木はいったい何だろうと調べてみた。こんな時にインターネットはとても便利で、色々な要素から行きついたのは「トウカエデ(唐楓)」だった。自信はないが、合っているような気がする。
 毎日見ていると気が付かなかったが、緑一色に見えた葉っぱの中に、既に命が尽きそうなものもあったのだ。いや既に命が尽きていたものがこんなに沢山あったのだ。季節の中に割り込んだ台風風(たいふうかぜ)が多くの命を落としていった。それも土に帰れない場所に。

 

https://www.youtube.com/watch?v=ZjvTBD01z8w