禁煙

 50歳代でも、僕の薬局を利用してくれている期間は、30年以上になる。と言うのは牛窓に嫁いできてすぐに僕の薬局を利用し始めたからだ。
 この幼さで母親かと言う衝撃的な出会いから、今では立派な白髪の女性だ。この女性との出会いが僕の漢方人生にとって多くの意味を持ち、鍛えられた。毎日のようにやってこなければならないほど体が弱い人で、ありとあらゆる不調を漢方薬でお世話させてもらったから、いかに低費用で早く治すかを問われ続けた。漢方はゆっくりとしか効かないから長い時間のまなければならない、こんな言い訳を口にしたことがないが、この女性で無数の人体実験をさせてもらった。
 長生きできないよと言うようなことが平気で口にできる関係になり、多くの専門的な示唆を与えてきたが唯一言うことを聞かないことがある。それが禁煙だ。どんなに注意しても絶対にタバコはやめない。タバコをやめずに病気を治す、そんな命題に僕は対峙してきたことになる。 
 そんな女性が今日初めて「あと7本残っているのを吸い終わったらタバコを止める」と言った。禁煙の話をするとすぐに話題を変える人だったが、今日は自分から言ってきた。不意を食らったのもあるがそんなに驚かなかった。しかし、言い続けてきたから達成感はあった。
 この1年従来のように体調不安を訴えた後、「悪いもんじゃないじゃろうな」が口癖になっていた。以前ならその一言を付け加える必要を感じていなかったのだろうが、50歳を回るとそれが一番のテーマに変わってくるのだろうか。癌が頭をよぎり出したのだろう。ついに恐怖が嗜好を上回ったのだろうか。死んでもタバコを止めないような女性でも、意識の中でそれが近寄ってくれば怖いのだろう。
 実際にどのくらいの苦痛と日数を経て完全に止めれるかわからないが、僕は彼女にエールを送った。「もし自分(あなた)が完全にタバコを止めれたらお祝いにマルボロをプレゼントしてあげる」
 ちなみに幼い時にはよく稼いでいたみたいで、生意気にもマルボロを吸っていたみたいだから。

 

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