平穏

 若いころ、年寄りが集まる会合で、ほとんどの会話の糸口、いや下手をしたら話題の中心に健康状態がなることに違和感を持っていました。ところがまさに僕もそのまんまです。意外だったことに、いやこれもまた当然でしょうか、○○さんも△△さんもそこから年賀状が始まっていました。同世代だから当たり前かもしれませんが、老いとの戦いの中に3人ともいるのだと感じ、笑いもこぼれたし、連帯して何とか乗り越えようとする気概も生まれました。特に○○さんの年賀状は、現役の医師の実情だから、悲哀と希望が織り交ざったもので、僕の多くの沈み切った患者さんたちの希望に使わせていただいています。
 僕は毎日淡々と生きています。縁ある方々のお役に立てればと思い「仕事」をしています。あとは食べるとか寝るとかの生きていくために必要なことに費やしているだけです。今から何かできるわけではないので、肉体的に平穏であってほしいい、それだけを考えています。
 3年前に十二指腸にできたポリープの生検のために全身麻酔をしました。一瞬にして眠りに入ったのには驚きました。目が覚めた時の熟睡感は心地よくて中毒になりそうです。ただあの時そのまま一生眠らせてもらってもよかったと本気で思いました。それを証明するように、その後の僕に、経験していなかったら悔やまれるような出来事は何も起こっていません。それこそ毎日毎日同じページの物語を読んでいるようなものでした。と言うことはおそらくこれからも、同じページを、それもだんだん色褪せてくるページを読み続けるだけなのでしょう。
 〇○さんも同じですが、40年以上多くの方々と接してきました。今僕の心を少し癒してくれるのが毎朝ウォーキングの時に出会う色々な種類の鳥たち。つくづく田舎に帰ってきていてよかったと感じる瞬間です。あの頃のままの生活では僕はとうにすんでいたと思います。
 現役を引退しないと、日をまたいで出て行くことがなかなか難しい状態ですので、そちらにも出て行けないですが、せめて「昔話が苦手」な間に出て行きたいものです。引退した後の時間を消化する能力と自信がないため「やむをえず」引退しかありえないような気がしますが。

                             大和

ここからはプロの文章

社長が口にしたら3日で会社がつぶれる3つの「菅首相用語」
 2021/01/23 16:05
菅義偉・首相の行動に側近たちも…© NEWSポストセブン 提供 菅義偉・首相の行動に側近たちも…
 リーダーにとって「言葉」は重要だ。危機を救う契機にもなれば、崩壊を決定づけることにもつながる。コラムニストの石原壮一郎氏が指摘した。
 もしかしたら忘れている人も多いかもしれませんが、現在、東京都、大阪府、福岡県など全国11都府県では「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」が発出されています。もちろん、それ以外の地域は大丈夫というわけではまったくありません。いったい何がどうなったら、収束の兆しが見えてくるのでしょうか。
 不安かつ困難な状況が続く中、たいへん残念なことに、日本に住む私たちはもう長いあいだ「この指導者についていけば大丈夫!」「この人はやってくれそうだ!」という思いを抱けずにいます。安倍首相から菅首相に交代しても、そこは変わりませんでした。
 いや、カリスマ的な指導者に盲従したいわけではありません。しかし、少しは「この人は頼りになりそう」と思わせてもらわないと、日々、落胆と怒りに包まれる羽目になります。さんざん疲れさせて、政治への諦めを持たせようという魂胆でしょうか。
 でも、政治家や政府にケチばかりつけていると、またあの偉そうで怖そうなおじいさんにケチをつけられます。どんな時でも、学ぶ姿勢は大切。今の日本の現状から、強引に教訓を得てしまいましょう。これも、いわゆるひとつの「自助」です。

 ひときわ国民をイラつかせているのが、記者会見や国会答弁における菅義偉首相の話しっぷり。我慢して聞いているうちに、大きな発見をいたしました。世の中のすべての社長さん、とくに会社の経営状況があまりよくない社長さんは、昨今の「菅首相語録」に学ぶところ大ではないかと。
 そんなわけで、たくさんの呆れた発言の中から「社長が口にしたら3日で会社がつぶれる3つの『菅首相用語』」をピックアップしてみました。その3つは、こちら。
その1「仮定のことについては、私からは答えは控えさせていただきたい」
その2「引き続き緊張感を持って、事態を注視していきたい」
その3「一日も早く収束させ、安心して暮らせる日常を取り戻すために全力を尽くします」
 それぞれ、なぜ社長が口にしてはいけないのか。たとえば部下が「社長、このままでは半年後に売り上げが半分になることが予想されます。いかがいたしましょう?」と相談してきたときに、その1の「仮定のことについては、私からは答えは控えさせていただきたい」と返したら、部下は瞬時に「この会社はダメだ」と見切りをつけるでしょう。
 あるいは、工場で製造ラインにトラブルが発生し、早くどうにかしないと生産がストップしてしまう状況だとします。のそっと様子を見に来た社長が、その2の「引き続き緊張感を持って、事態を注視していきたい」と言ったら、工場にいる全員が即座に手を止めて家に帰るでしょう。役員会議で「表示の偽装が判明しました」と報告されて、こう答えたとしても同じ。その場で解任動議を出されても仕方ありません。
 会社というところは、トラブルの火種が常にくすぶっています。セクハラやパワハラモラハラやイジメ……。被害を訴える部下や事態の深刻さを報告する部下に対して、社長が「一日も早く収束させ、安心して暮らせる日常を取り戻すために全力を尽くします」と人ごとみたいな言い方をしたら、その日のうちに社員全員が辞表を出すでしょう。
 また、それこそどこの会社でも、コロナによる「クラスター」がいつ発生するかわかりません。そうなった場合の対策を相談されたときに「仮定のことについては、私からは答えは控えさせていただきたい」と話を打ち切る。発生しても「引き続き緊張感を持って、事態を注視していきたい」としか言わない。さらに詰め寄られたら「一日も早く収束させ、安心して暮らせる日常を取り戻すために全力を尽くします」とすました顔で答える――。ここまでくると、悲劇を通りこしてもはや喜劇です。
 気を付けたいのは、この3つの言葉だけではありません。ほかにも「丁寧な説明をしていきたい」(まずは何をどう説明するつもりかを丁寧に説明してほしい)「専門家の意見を聞きながら判断した」(暗に「こうなったのは専門家のせいだ」と責任を押し付けている)など、言ってはいけないお手本を頻繁に繰り出してくれています。
 世の中の社長さんにおかれましては、「ああ、これは言ってはいけないな」「こんなこと言ったら間違いなく会社はつぶれるな」と感じていただけたでしょうか。社長に限らず、上司やリーダーの立場にある方も、ぜひ参考にしてください。
こうして反面教師にさせてもらえてありがたい限りです。ところで、首相といば、日本という国の社長みたいなもの。経営状況がよくない国の“社長”が、言ってはいけないセリフを連発しています。企業ならとっくにつぶれていそうですけど、はたして大丈夫なんでしょうか。もしかしたら日本は、私たちが思っている以上に深刻なピンチにあるのかもしれません。