菖蒲園

 公共の交通手段しかないベトナム人は、まだ外出禁止だ。なるべく町内で、それができなければほとんど町内と違わないくらいの距離で、人が少ないところを狙ってストレス解消の手伝をしているが、菖蒲の里と言う見出しはとても魅力的だった。菖蒲の背丈くらいのアングルから写した写真も掲載されていて、想像を掻き立てられる。この想像とは、菖蒲の咲き誇った姿でなく、その中に入り花をバックに自分を映すことに陶酔する彼女たちの姿だ。
 花を見に行こうと誘うと案の定とても喜んだ。そして備前市のその菖蒲園に着いた時に喜びが一瞬にして落胆に変わった。菖蒲園とは名ばかりで、休耕田を2枚菖蒲栽培に使っているだけだ。見ごろは今月20日ごろまでと書いてあったが、まだ咲いていないのか、もう枯れかけているのかどちらとも取れるような光景が、2枚の畑に広がっていた。もちろん僕たち以外に訪れている人はなく、結局彼女たちは1枚も写真を撮らなかった。
 毎日新聞さん、もう少し訪れる人のことを思ってしっかりしてと言いたいし、名ばかりの菖蒲園ではいただけないと地元の人にも言いたい。だけど僕が選ぶのはやはり「すごいではないですか!」なのだ。と言うのはそのあたりから漢方薬を取りに来てくださる方を何人も知っていて、農業で生計を立てている人たちばかりなのだ。米を作るのは基本で、生産性の高いブドウ農家も多い。どなたも日焼けして、腰や首を傷め、それでも懸命に働いている。人がいい人が多いのも職業の影響だろうか。純朴な方が多く接していて気持ちがいい。
 そんな方に、菖蒲園の洗練された商品化までは期待してはいけない。どこかそういった分野は苦手な方が親しみがわく。訪れる人の目を少しでも楽しませてあげようと思って活動しているだけなのだろう。だから僕は「すごい」で今日の訪れを締めくくった。