若い友人

〇〇〇さんへ

 3年間ご苦労様でした。あっという間の3年間でしたね。沢山の思い出がありますが、是非あなたに伝えたいことだけ書きます。
 この3年間は、過去のどの時期よりも寮の人たちと親しくなったと思います。それはあなたの通訳としての能力だけでなく、人間性によるものが大きかったのです。あなたは過去のどの通訳よりも、寮の人たちに溶け込んでいました。通訳と言う肩書きを忘れてしまいそうでした。それだけ皆と仲がよかったのでしょうね。恐らくあなたが自分の肩書きを鼻にかけずに謙遜だったからだと思います。持って生まれた明るさも手伝っていたのかもしれません。おかげでお父さんは多くの寮生と一杯話をすることが出来ました。彼女達の心模様を知ることが出来て、お父さんがお手伝いできることも見つけることが出来ました。何よりあなたの同時通訳のおかげで、彼女達に多くの笑いを届けることが出来たと思います。異国で頑張る人たちに心のプレゼントをしたかったので、単に機械的に通訳するのではなく、お父さんの意図するところまで汲んでくれて通訳してくれたことに感謝です。彼女達の表情を見て、お父さんの心がいつも正確に伝わっていることを感じていました。人間と人間としての付き合いが皆と出来たのはあなたのおかげです。
 あなたに教えられたこともあります。多くの中で一番印象深いことはあなたがしばしば口にした「人それぞれ」と言う考え方です。お父さんは、貴女方とのかかわりでベトナム人を一くくりで判断しがちでしたし、逆もそうだったと思います。でもあなたはいつも冷静に「人それぞれ」と言いました。おかげで皆を好きなままで今もおれます。多くベトナム人がやってきて、多くの不快な出来事も起こしていますが、日本人と同じように「人それぞれ」と思うことにしています。なんだかそう思うと、ほとんどのことがたいしたことでないように思えてくるので不思議ですね。ベトナム人の貴女に日本語でまじないのような言葉を教えてもらいましたね。
 あなたとお父さんの年齢の違いを超えて、いみじくも同じ経験をしてしまいましたね。お父さんの場合は大往生の母親ですが、あなたはまだ若いお父様を失いました。同じ喪失でも哀しみの深さは大違いです。悲しみをこらえていたあなたの姿は目に焼きついています。お父さんに本物のお父さんの代りはできませんが、少しでもあなたの悲しみが癒えたらいいなと思っていました。
 3年前にあなたが来日した頃、将来の夢を尋ねたことがありますね。あなたはベトナムの貧しい人たちのために食事を作ってあげる施設を作りたいと言っていました。崇高な意思を持っているんだと感心しましたが、いつか将来それが叶うことを祈っています。これからどんな道を歩むか分かりませんが、世のため人のためになるようなことを選択できる能力と心をあなたは持っています。いつかそんな知らせがベトナムから届いたら、お父さんも空を飛んでいくかもしれませんよ。
 あなたは日本語が出来るからいつでも話すことが出来ます。時間に余裕があるときには連絡してください。遠くに帰って行きますが、あなたはいつもお父さんの心の中にいます。あの重い寮の扉を開けなくてもいつでもあなたには会えます。
 日本に来てくれてありがとう。お父さんの前に現れてくれてありがとう。お父さんの若い友人〇〇〇さんへ!

                                                     お父さんより