鉄格子

 鉄格子から首を出して、カメラの方を覗いている。カメラと言うか実際にはカメラを持っている主の方だろう。ハスキー犬がまさかカメラ目線にはなるまい。
 主が何か犬に語り掛けているが、僕には外国語だから何を言っているのか分からない。ただ時折手元を映すと猫を抱いていることがわかる。猫も日本にいるようなトラ模様の猫だが、確かにそこは外国。
 恐らく主人に抱かれている猫にハスキー犬が焼きもちを焼いて、家から出たがっていると言う構図だろう。
 何か喋りながら、カメラが格子の方に近づくと、犬は待ちきれないように格子から体まで出そうかという勢いで首を出す。次の瞬間首を一気に格子から抜いたと思うと、主の手に抱かれていたはずの猫が、その格子から家の中に飛び込んでいった。まるでいつもの光景のように。そして映し出された室内の様子は、2匹がじゃれあいとても愛らしい。「きょうのわんこ」にでも投稿すれば視聴者を癒すことができるのではないか。大型犬が猫と戯れるのだから。そういえばオオカミを連想させない顔つきだった。
 カメラの主の若い女性は、数少ない日本語のレパートリーの中で「おじいちゃん」を連発する。初めて会った時、僕の手を取り自分の額にあて挨拶をしてれくれた。それがかの国の目上の人に会った時の挨拶らしいが、なんだかとても嬉しかった。貧困の中で育ったはずなのに、根っからの明るさを備えていて、コロナが開ければ、僕と妻だけの家に活力と温かさをもたらしてくれるだろう。
 貧しさの中で育つ人を世話できるほどの経済力を持てなかったから、一度でも二度でも笑顔を増やすことくらいしかできない自分が歯がゆい。

 

https://www.youtube.com/watch?v=0oLMfW5R6nU