熱湯

 熱湯を入れたらコップが瞬時に割れた。長い間見たこともない光景が起きた。
 煎じ機で作った自分用の薬を飲もうとコップに移した途端、ガラスコップが二つに割れた。幸い手に持っていなかったので熱湯を浴びることはなかった。
 決して古いコップではない。綺麗な模様が施されているから、そして色違いの同じようなコップがあるから、何かの祝いでいただいたか返礼品だろう。決して粗末なもののようには見えない。ただし、今はどこで作っているかわからないものばかりだからすべての製品に信頼を置くのは、はばかられる。ただし、コップが割れる寸前までは製品に全幅の信頼を置いていたのが、この何十年の僕(日本社会)だ。
 もし傷があったのならそれはそれでいいのだが、ひょっとしたら、そもそも耐熱ガラスではなかった?そんな製品が今の時代に存在しているのだろうか?存在していたのだろうか?とても珍しい経験をした。
 だがこのところ起こっている社会現象のほとんどは、この耐熱処理を施していないガラス製品が存在し、もろくも熱湯をかけられただけで割れてしまうことに酷似している。繰り返される風水害も、ウイルスの襲来も、すでに克服されたかのように誤解していたものばかりだ。強靭な土木事業や強靭な医学で克服したと、できると高をくくっていたことばかりだ。割れないはずのコップがいとも簡単に割れる。劣化を待たずともこの国はいとも簡単に割れてしまう。とどめを刺すのは何なのだろう。