喫茶店

 そうか、それが言いたかったのか。
今日2回薬局に来てくれた女性が結局3回目に僕に会えた。もう30年以上僕の薬局を利用してくれている人だから、僕も彼女も遠慮がない。いつもの漢方薬を作る依頼だが、1度目は電話相談中、2度目はちょうど手を離せない薬の調合中。勝手知ったる彼女だから遠慮してよそで用事を済ませてくると出て行ってくれた。
 3回目は意地でも応対しなければと思っていたら丁度手が空いた時間に来てくれた。15分くらい雑談をしたのだが、僕が昔ほど時間をとれないこと、最近の僕が忙しくてゆっくり(どなたにも)応対していないこと、そして僕が疲れた顔をしていることを心配してくれた。
 そして、いつかの土曜日に見かけた新しい薬剤師の話になった。県外から1日限定で勉強?手伝いに来てくれている薬剤師なのだが、その人柄などをひつこく尋ねてきた。知識も経験も人格もそろっていると話すと、僕が寮として提供している隣にあるベトナム人用の古民家から、ベトナム人に出て行ってもらって、薬剤師の寮にしたらいいと提案してきた。そうすると僕が楽になって、まだまだ仕事を続けられると言うのだ。彼女は現代薬が飲めない人で、16歳からずっと僕の漢方薬ですべての病気を治してきた人だから、ほとんど友人関係だ。僕の体調をひょっとしたら一番知っている人かもしれない。赤の他人がそこまで心配してくれるのかとありがたがっていたら、「この薬局がなくなったら私は困る。絶対薬局をやめないで。その薬剤師さんに牛窓に住んでもらえばいいじゃない」
 そうか僕でなくてもいいのだ。僕と同じレベルの漢方薬を作ることができる場所があればいいのだ。「椅子にいっぱい腰掛けされられて、薬を待つ薬局は嫌い。ここは喫茶店みたいだから嫌じゃない」そうか僕でなくてもいいのだ。