行列

 毎年この季節に肺のレントゲンを撮る。巡回車が回ってきて公民館の広場に陣取る。わずか30分の間に地域の希望者が受けるのだから「読み」が必要だ。できるだけ時間を割きたくないから30分間のどの時間帯が人が少ないか読む。出足が悪ければ始まってすぐがいいし、真面目な人たちだったら開始早々が多いだろうから終わる瞬間に駆け込むのがいい。
 そして今日僕が公民館に出かけたのは、そのどちらでもなくちょうど真ん中の時間帯。実はこれは意図したところではなく、偶然ぽっかりとその瞬間に時間が取れたのだ。クロネコの郵送にすべて間に合って作ることができほっとした瞬間がまさにその時間帯だった。
 ところが公民館に着くと、今まで経験したことがない人が行列を作っていた。僕の部落にもこんなに人がいるんだと思うくらいだった。だがよく見てみると、人と人との間隔が大きく空き、机ごとに呼ばれ、その都度消毒液を掛けられる。僕はさすがに経験がないが、その昔毛じらみ退治で消毒薬をかけられている戦後すぐの光景を撮った写真を思い出した。何とも惨めな気持ちになる。おまけに僕はマスクを持っていなかったから、手作りのマスクまであてがわれた。
 何から何までが大げさで時間を取る。居眠りをしそうだった。ところがなぜかレントゲン車には常時3人が入らされる。公民館の庭の広いところでは離れて並ばされて、狭い車内には詰め込まれる。確か車には「公益法人」とか書いていたように思う。どういった意味かよくわからないが、あまり儲け主義でやるななんて縛りがついているのだろうか。そのせいか受付をしている女性が礼を欠いていた。儲けなければ事務的で済むのか。距離を取らせ消毒を強要するのは、実は自分を守っているのではないかと思わせられるほどだった。広い青空の下、マスクが臆病な行列を作っていた。