救い

 美味しい、そして懐かしい。薬局の子はリポビタンで育った。
 牛窓に帰ってきたころの薬局は、リポビタンをはじめとするドリンク剤をいっぱい売っていた。愛飲家がとてもたくさんいて、薬局にやってくる20から30%くらいの人はドリンク目当ての人だった。
 特にリポビタンは絶妙の味がして、多くの人に受け入れられていた。宣伝効果ももちろんあったのだろうが、他のドリンクに移行した人でも、やはりリポビタンに帰ってくることが多かった。
 最近は夜明けが早いので毎日5時には目が覚め起き上がる。新聞を読みウォーキングをし、6時ころにはパソコンを開く。途中30分くらいは食事に時間を割いて、結局9時まで皆さんに返事を書く。9時にはスタッフが集まるからそれぞれの分担をこなす。昼食が2時ころだから結局それまでにすでに9時間起きていることになる。
 昼食を食べると眠くなる。最近は健康に配慮し運が良ければ15分昼寝をする。だが、すでに普通の人の分くらい働いているので、気付けが欲しくなる。コーヒーでもいいが、飲み過ぎると若干胃に負担がかかるので我慢していた。そうしているうちに妻が驚異の以心伝心を発揮し、何とリポビタンをドラッグで買ってきてくれた。かつてなら1度に5000本くらい仕入れていたのに、たった1本をドラッグに買いに行かなければならないのも情けないが、ドンピシャで買ってきてくれた。何年ぶりのリポビタンだろう。中学生のころからほとんど毎日のように飲んでいたあのリポビタン。YOUは何しに日本へだ。
 ほとんどカフェインの効果だと思うが、いやあの隠された甘みも疲労に効いているのかもしれないが、とにかくしばらくの間体がもつ。美味しくて覚醒すればこんなにありがたいものはない。かつてよく働く人のたまり場の様だった薬局も、処方箋を持って病人がやってくる場所に変わった。面白くて楽しい会話が、シビアな会話に変わった。時代はずいぶんと変わったと思うが、リポビタンの味だけは変わっていなかった。これは救い。