大学生

 田舎の薬局だが時には大学生も来る。昨日来た男子学生に、暇でいいだろうと言うと、オンラインで授業があると言った。教室にいても集中できなかった僕だから、自分の部屋にいてパソコンの向こうの講義を聴くなどありえない。パソコンを開いて、後は野となれ山となれ。寝るか、パチンコに行くか、貧しかった僕にはその二つしか選択肢はなかったが、現代の学生はそうでもないらしい。
 僕は学生はみんなかつての僕と同じと言う妙な自信があるから、パソコンなんか開かずに遊んでいればいいじゃないと言ったのだが、どうも彼は僕の常識を超えている学生らしくて「先生が、カメラをつけるように指示される」と言った。実際にそうしているらしい。なるほどそうすれば学生が、自分の講義を聴いているかどうかはすぐわかる。敵もさるもの。
 僕は気が付かなかったが、ほとんどのパソコンには自分を映すカメラがついている。いかにもカメラみたいに存在しないからわからなかった。ただそれでもかつての僕ならあきらめないだろう。実物大の写真を撮って立てらせておくかもしれない。どうせ何百人が同時に映っているのだろうからわかるはずがない。顔を伏せ、いかにもノートを取っているような姿勢がばれなくて済むかもしれない。
 今思えば何のために大学に行ったのだろうと思う。少なくとも勉強をするために行ったのではない。高校生までの受験勉強の精算をしに行ったのだろうか。もしそうなら最初から勉強をする気持ちなどなかったことになるが、少なくとも4月いっぱいくらいはその気持ちがあったから、いよいよ謎だ。
 じっと画面を見続け、右手だけをマウスをもって動かす。かつてのパチンコと同じだ。
僕はこの姿勢は得意で何時間でも続けられるのだが、何しろい欠点は、うまく言った時にジャラジャラと玉が出てこないところだ。知識より出玉。