飛行

 昼過ぎに裏戸を空けて駐車場に出た時に、駐車場と言っても、完全に戸外ではなく、建物の1階部分なのだが、目の下をイトトンボが飛んで横切った。今年初めて見たトンボがイトトンボだったので、季節の感覚を一瞬失ったような気がした。だけどそのあとすぐに太陽の下に出た時に、予告なしの夏の訪れに気が付いた。僕に断って季節はやってくる必要ないものだから、堂々と紫外線を降り注いでいた。
 田舎でも幹線道路沿いの僕の薬局あたりで、かろうじて目にできるのは夏の終わりの赤トンボくらいなものなので、河原でもない、田んぼのあぜ道でもないところでイトトンボを見かけるのは珍しい。これは良い予兆か、それとも。はたまた、アクセル踏みすぎ病の僕を慰めるために遣わされたものなのか。
 飛行を目で追えた数秒でも、僕の心は軽くなった。人に傷つきトンボに癒される。人間てなんだ!