営業妨害

 アイロンがあたった白衣を着てネクタイを締め、笑顔で映っていたら、言っていることの信ぴょう性も絶大だろう。ましてそれがクリニックの院長なら。片やよれよれで薄汚れた白衣のボタンも合わさずに、ネクタイも閉めずに自分の首を絞めている田舎の薬剤師の言うことなど信じてはもらえないだろう。
 だが僕はもう数年前から言える人には言っていた。「ボケるよ」と。だがそれを信じてやめた人はいない。やはり薬剤師が言うのではなく医者が言わなければ。ただ医者の場合、それを言うと他に使える武器がなくなってしまうから言えないだろうな。運よく僕は医者で効かない人ばかりお相手しているから、「効かないなら止めたら」程度は言える。ただし処方箋を持って来ている人に「止めたら」は言えない。昔それを言ったばかりにえらい怒られたことがあるから、同じ轍は踏まない。僕の薬局を従来から利用している人は色々な話を雑談でしているから結構知ってもらっているが、処方箋を持ってくるだけの人とは雑談もできないから真の情報は伝わっていない。
 胃酸を強烈に出す仕組みを抑える薬がもう10年くらいになるだろうか世に出た。期待されたとおり実際に従来の薬をはるかにしのぐ効果がある。ただそこから零れ落ちる患者もいて、漢方薬を頼ってきてくれるのだ。だがその薬が痴呆を促進するとわかってからは、零れ落ちたほうがラッキーと言うことになる。今では痴呆を進める以外に発がんの可能性も言われているから、それらを覚悟して飲んだほうがいい・・・と誰かが言わなければならない。お医者さんか、門前薬局か?お互い利害が一致しているから言えないだろうな。となるとつぶれかかった薬局か。
 腰が曲がって、本当は少ない胃酸なのに、胃にたまるから胃酸過多のようになっているだけの人に、飲むなとは言えないし、飲めとも言えないし。こんな時に漢方薬で介入できたら悩むことはないのだが、言ってしまったら明らかに営業妨害だ。圧倒的な実力があればできるが、そんな実力、人生を3回くらいやり直しただけでは付きそうもない。4回くらいなら・・・