共同作業

 漢方薬でお世話をする仕事をしている身にとっては、太ったりしたらこの上ない朗報と受け取ることが多い。この女性もその中の一人だ。
 本人の薬ではなく家族の薬を取りに来たその顔はふっくらしていた。女性にとって褒め言葉ではないから単刀直入には言えないから「自分、少し太ったのではないの?」と尋ねた。単刀直入のように聞こえる人もあるかも知れないけれど、僕にとっては結構迂回している。するとやはり5kgくらい増えたらしい。体重が増えるときは何でも治るという信念の僕はただただ喜んだ。もうずいぶんと長い付き合いのその患者さんはその理論も恐らく僕から聞いていたのだろう、照れながら喜んでいた。体調のよさを実感しているのだろう。
 そもそもその女性が僕の薬局に数年前突然来るようになったのは心の病気だから、心身ともにまいっていて、食事もままならなかった(だろう)。安定剤を複数飲んでいたから、まず、心の病の克服、その次に病院でもらっていた数種類の安定剤とのバイバイ。2段構えで一緒に努力した人だ。家族の病気や家業の繁忙などで心身ともにすり減らしていたが、幸運にも僕の漢方薬が奏功してどちらの目的もほぼ完成させた。
 あれだけ深刻で険しい顔をしていたが、今は柔和で、それなりに人生を楽しんでいる。その過程を一緒に経験でき、望まれる到達点に誘えるのは田舎の薬剤師にとってはこの上ない喜びだ。華やかとは縁遠い田舎で、たいした舞台が僕達にあるわけではないが、いたわりあいながら体調を回復していける関係は何にも勝る。たった5kg太ったことでも、僕とその女性には共同作業をやり遂げた達成感がある。失うばかりの、手放すばかりの世代にも、こうした季節はずれの花も時に咲く。