墓掃除

 小雨になるのを待って、隣の寮に住むベトナム人を連れ出した。名目はお墓の掃除だが、実際には太白梅祭りの会場に連れて行くつもりだった。もっとも午後3時を回っていたので、開会式当日のイベントは全て終っていて、まして冷たい雨交じりの風が吹いていたから人はいないだろうと予測していた。案の定会場に着いたときには人影はなく、公園に入っていっていいのだろうかと不安になるくらいだった。
 僕はかつて一度だけ下から眺めたことがあるが、実際に足を踏み入れるのは初めてだ。小高い丘の上に駐車場から梅の花が見える。梅祭りが開催されるだけあって花は咲いていた。花音痴の僕には梅がいつ開花するか全く分からない。梅が咲いているのを見たときには少し安堵した。
 花に誘われるように登っていくと、木の橋がモザイクのように渡された池があって、なかなかシンプルだがモダンなつくりだった。梅の木も池を囲むように沢山植えられていて、白と赤色の花がそれぞれ競い合って咲いていた。雨傘片手で、墓掃除目当ての作業着姿の彼女達は花に喜び、自分を入れないで写真を撮っていたが、そのうち上半身だけは入れた姿を自撮りし始めた。もし梅を見に行こうなどと言ったものなら何時間化粧のために待たされるかわからないから、墓掃除といったが、嬉しそうに写真とりまくり状態になったときにはそのことを少し後悔した。どうせなら美しい自分を撮りたかったろうに。ただ僕にはカメラでは撮れない彼女達の美しさは十分分かっている。冷たい風が冷たい雨をかさの横から体にぶつける天候の中、快く墓掃除を引き受けてくれたのだから。誰が全く他人の墓掃除を休日、それも雨の中手伝ってくれるだろう。
 公園の中にピラミッドのような小山があった。石段を登っていくと360度見渡せる。そんなに高くないから展望はいまいちかもしれないが、それでも吉井川の流れが手に取るようにわかり、僕にとっては新発見だった。僕の家から車で20分もかからないところ、その付近は毎週日曜日には車で通過するところに、シンプルだがとても手入れされた公園があることには気がつかなかった。道路沿いに立てられた梅祭りののぼり旗に誘われるように訪ねてみたのだが、ちょっとした好奇心が新たな体験をもたらしてくれる。管理している岡山市に感謝かな?