出会い

 僕は何年も、いや20年以上こうして休日は過ごしていた。
 新幹線で広島駅に降りるとすぐに医師会館に向かった。そこで漢方の講演会があったのだが、終わるとすぐに帰った。2時間の講演会をはさんで、3時間くらい広島にいただろうか。せっかくの広島行きも本来の僕には単なる移動なのだ。この10数年ベトナム人の労働者を色々な所に案内してきたから、観光らしきことにいそしんできたが、本来はさほど興味はない。そのことを今日の広島行きは思い出させてくれた。
 僕の漢方の先生の先生。その名前をタイトルにした講演会が医師を中心にした勉強会でタイトルに挙げられていたので、これは実力の程を見極めてこなければならないと是が非でも出席したかった。僕にとって先生の先生を支えた先生を越える人がいるようには思えなかったからだ。そうした存在がもしあったらそれはそれで世のためには喜ばしいことなのだが、今まで耳にしたことがなかったので寝耳に水だったのだ。僕は面白おかしく、それでいて真摯に悩める方々に向き合われる先生の知識を頂いてきた。この面白おかしくが、漢方薬に興味のなかった僕を30年以上漢方の世界に引きとどめてくださった。先生のその飾らない性格がなかったら、今の僕は存在しない。
 お医者さんで漢方を使われている方々の勉強会だったのだが、2時間話を聞いて目新しいことは何もなかった。僕は面白おかしく全てを教えてもらっていたのだ。それももう30年前に。改めて心の中で先生に感謝した。ただ、お医者さんたちの熱意はすごく伝わってきて、薬剤師ごときの僕など、いずれ出番はなくなるのではないかと思った。そういった意味では、僕は漢方薬局として「いい時代」を生きることが出来たのかもしれない。ただ一人の先生、その前にその先生を紹介してくれた漢方の先輩との、偶然の出会いのおかげで。