戦意喪失

 ティーンエイジャーが幸福を感じるのには、自分の家族の社会的地位が高いことが重要であるようだ。米カリフォルニア大学アーバイン校心理科学教授のCandice Odgers氏らが、約2,200人の英国で生まれた双子を対象に調査した結果、ティーンエイジャーが身体的にも精神的にも健康で、学業成績も良好であるのには、親の職業や学歴、資産よりも社会的地位の高さが強く影響する可能性が示された。18歳のときに家族の社会的地位を高く評価した子どもは、家族の収入や健康状態、十分な栄養、教育レベルとは関係なく、精神的な健康や学業成績が良好であることが分かった。また罪を犯すなど問題を起こす確率は低く、より教育を受けたり、仕事に就いたりする確率は高かった。そのほか、精神面での問題を抱える確率も低かった。
 Odgers氏は「家族が裕福かどうかは、子どもの健康や受けられる教育、そして人生のチャンスに恵まれるかどうかを予測できる因子の一つであることは明らかだ」と指摘。その一方で「今回の調査結果からは、子どもたちのウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)には、社会階層の中で自分の家族が置かれた地位をどのように見ているのかも重要であることが示された。思春期のときの考え方により、子どもが将来、健康や社会的成功を得られるかどうかを、より正確に予測できる可能性がある」と説明している。
 また、Odgers氏は「思春期の子どもに考え方を変えさせたところで、不平等な社会を克服できるわけではない」と述べる一方で、「社会格差が広がる中、若者が直面する障壁を乗り越えて、彼らが社会で幸せや成功をつかめるように支えるためにも、社会的な要因と個人的な要因の双方に焦点を当てた画期的な解決策を探っていく必要がある」と述べている。
 
 この報告を聞いてさもありなんと胸をなでおろす人と、戦意喪失の人がいるのではないか。いや、そのどちらにも属さないというか、どちらにも転がりそうなまだ希望もあり不安もある中間層も多いのかもしれない。なんとなく、漠然と感じていることを研究結果として学問的に発表されると、問答無用で精神に止めを刺されたようなものだ。
 生まれながらにして、自分が属する階層をあてがわれ、その中でしか生きていけない人たちが今の時代に多く存在する。江戸時代かと言うような光景が固定化されている。懸命に生きても持ち点が少ない人たちに大量得点は訪れない。なんともむなしく歳月が過ぎるだけ。雪だるま式に資産や地位や健康が増え続ける階層は己をますます豊かにしていく。
 「恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれない人々をおとしめるためでなく、そういう人々を助けるために使ってください」19年東大入学生に向けられた上野千鶴子のメッセージはますます現代のこの国のエリート達には届かない。この国で最も汚い人間に忖度するような疫人が、戦意喪失の階層に希望など与えられるはずがないし、それ以前に頭の中に存在もしていないのだから。