恩恵

 元気いっぱいだった人が何かのトラブルで病的になると、病気慣れした人よりダメージは大きいみたいだ。まして病院に行ってもはっきりした病名を告げられなかったり、出される薬が軒並み不発だと、自分でどんどん落ちていくらしい。今日1週間で半年間の不調を漢方薬で7割治すことが出来た青年は「死ぬかと思っていた」らしい。1週間前に入ってきた時の顔と今日の顔が全く違っていた。漢方薬は病名にこだわらず不調を改善していくことができるから、そのことが役に立てたのだろう。
 そんなことを感じていたらちょうど目を通していた漢方の雑誌にある医者がレポートを寄せていた。漢方薬を扱うお医者さんらしいが、ある時、繊維筋痛症の方が受診してきた。その先生はその病名にこだわらず、患者さんの不快症状に耳を傾けて漢方薬を処方したそうだ。するとその難病が1週間くらいでかなり改善したそうで、数ヵ月後にはほとんど忘れたように生活しだしたらしい。先生が使った処方は確かに繊維筋痛症に投与されるようなものではないが、先生は何かを感じたのだろう。診断や検査結果を重視するお医者さんが、こうした感覚と言うか、伝わってくる雰囲気みたいなものを敢えて重視したことが功を奏したのだろう。となると診断や検査が出来ない僕ら薬剤師でも耳を澄ませば患者さんから伝わってくるものを受け止めることができる。それを薬草に合わせていけば先生と同じようなことができるはずだし、実際に僕も多くの諸先輩方もやってきた。薬剤師が漢方薬を絶えないように守ってきた歴史を考えるとさもありなんと思う。
 薬草とはいえ所詮草でしかないはずなのに、それらの恩恵を目の当たりにできる日々は僕の精神状態を守ってくれているような気がする。