皮肉

 「なにぃ!釣りに行く?」思わず出た言葉だが、出ても不思議ではない。若い漁師が「今夜、友達と釣りに行く」と言うものだから。
 夕方やってきた若い漁師は、最近は夏休みにして漁に出ていないと言う。あまりの暑さで魚もいないのだろう。それと薬局にやってくるくらいだから体調に少し不安があって、大事をとっているのだろう。そんな彼が今夜友人と釣りに行くから薬を作ってと言うのだ。
 漁師が釣りをして遊ぶとはどういうことだろう。僕が休日に薬を作って遊ぶ?学校の先生が休日に塾で教えて遊ぶ?教会の神父様が休日にお宮へ参って遊ぶ?自衛隊員が休日におもちゃのライフルで野戦ごっこをして遊ぶ?野球選手が休日に草野球をして遊ぶ?・・・・・どれもありだ。
 本当に好きならありだろう。彼が遊びで釣りに行く理由は「魚の引きが指先に感じる快感が仕事では無い」そうで、友人とおしゃべりしながら魚の引きを待つのは楽しいのだそうだ。それはそうだろう、底引き網でのきなみとって行くのだから感動は無いだろう。
 薬局の中でのたわいないお喋りだが、僕は40年間、こうしたスタイルを貫いてきたので、とても多くの方とおしゃべりを楽しみ、多くの喜びに接し、多くの感動を味わい、多くの知識を頂いた。田舎の薬局なので特別立派な肩書きの人が来ることはないが、ごくごく普通の人が与えてくれるものにはすばらしいものが多くあった。薬局の中に閉じこもって40年。ただ僕の代わり?にそれぞれの持ち場で活躍をしている人からの情報はとどまることを知らなかった。仕方なく「あとを継いだ」のだが、こんなに合っているとは想像しなかった。田舎と薬局。どちらも否定していたのに、僕を生かしてくれる二つのキーワードだった。人生は皮肉なものだ。

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