保証

 なんともつらそうな顔だ。顔は血色を失い痩せている。食欲もないし食べれないそうだからそれは容易に想像がつく。カルテを見てみると毎年大体この時期にやってきている。それも同じ訴えで。今日もまた去年と同じ訴えだ。その訴える症状には近年劇的に奏功する現代薬ができて、漢方薬の出番がなくなるのかと思っていたら、そこから漏れる人が意外に多いし、その薬を連用すると痴呆と発ガンの確率があがってくることが最近しばしば報告されるようになってきた。
 僕の漢方薬と、ある天然薬でとてもよく効いて毎年喜ばれる。症状が取れれば足が自然と遠のいて、又冷たいもの硬いものお構いなしに人生を楽しむ。そうしてまた胃を壊して病院に行く。医者は劇的に効く薬をくれるが、この方はそのせいで火に油を注ぐように胃が悪化する。病院はさすがに信頼されていて、この数年必ずこのパターンなのにまず病院にかかる。初めて飲んだときに劇的に効いた成功体験から抜け出せないのだろう。
 弱りきった表情で入ってきたのに、会計を済ます頃には明るい表情を取り戻し「もうこれで安心。こちらさんがあるから安心しています。必ず治して貰えるから」と言った。ありがたい言葉ではあるが、息子さんが医者だから複雑な気持ちだ。恐らく息子さんはお母さんのことが大切だから、直接診ないのではないか。医者だからこそ見えるものが多く不憫で、冷静さを欠くのではないか。ちなみに、この方の主治医は息子さんの先輩らしい。
 医者が家族にいてもそんなにありがたいものではない。意外と恩恵も少ない。元気でおれる保証も無い。プロになればなるほど家族より人様を幸せにしたいと思うものだから。