錯覚

 「そんなことはありえない。絶対ない」と言われても事実そうなのだから困ったらしい。「70歳を過ぎて病院の薬を飲んでいない人など見た事がない」その見たことがない人が目の前にいるじゃないのと思ったらしいが、口には出さなかったらしい。
 僕のところで静脈の滞りを取る煎じ薬を飲んでいる方が、目がカサカサするから眼科に行った。すると眼科医は、どんな薬を現在飲んでいますかと尋ねたのだが、その女性は僕の漢方薬以外飲んでいないので「飲んでいません」と答えたらしい。そこで出た言葉が冒頭の言葉だ。どうやらお医者さんのの頭の中には、70歳を過ぎれば全員が医者の上得意だと思っているらしい。ところが世の中医者のために皆生きているのではない。もともと健康で病気をしない人もいれば、化学薬品をできるだけ体の中に入れまいとする人もいれば、自爆テロの生き方を選択している人もいる。僕の母なども、息子が漢方薬の勉強をしていても、その実験台になる機会もただの一度を除いて無かった。90歳を過ぎて膝が痛くなり、山の中腹にあるお墓に参ることができなくなって初めて漢方薬を作るように頼まれたが、治るまで3ヶ月真面目に飲んだだけでまったく薬とは縁が無かった。検診でコレステロ-ルの値が高いと通知が来ると、しぶしぶ医者に一度は行くが、出された薬は一度も飲んでいない。最後は介護施設に入ったが、頭以外はすこぶる元気で結局、薬は飲ませないでと言う希望通り最後まで飲まずに大往生した。そんな母よりもっと健康的な人生を歩んでいる人は結構いるが、医者は病人としか付き合わないから、冒頭のような錯覚に陥るのだろう。
 日本医師会も痔見ん党の強力な支持団体だが、病院にかからない老人がいることに「そんなことありえない」と驚くよりも、日本一の大嘘つきを延命させる執行部に「そんなことありえない」と言ったほうがいい。