レオマワールド

 30年以上前に子供たちを連れて来たはずなのにただのひとつも記憶に残っているものはなかった。よほど当時印象がなかったのだろう。もっとも、世間並みのことを思い立って子供を遊園地に連れて行こうとしただけなのだから、湧き出感動もなかったのだろう。所詮僕にとっては真似事でしかなかったのだ。
 それにしてもテレビコマーシャルはするものだ。少なくともそれで僕ら5人の客を作った。チューリップが12万本と言うようなキャッチフレーズをテレビで見かけ、花好きで、小さな旅行の順番が回ってこなかったグループに楽しんでもらうことにした。
 何をもって12万本とするのか分からないが、そんなにあるようには見えなかった。ただ小さな丘の斜面全てをチューリップが埋めつくしていたから、それはそれで壮観である事には違いない。その光景を見つけて歓声とともに駆け寄る姿を見て、僕の腰痛押しのアッシー君も報われた。
 写真の撮りまくりはいつものことだが、4人の中に一人がアオザイを持ってきて着替えて撮っていた。薄い青色のアオザイだったがとても美しく印象的だった。さっきまでのジーンズ姿の女性と同じには見えなかった。自国で異国情緒を味わった。
 往復4時間の運転なのだが、結構疲れて帰ってきた。僕が帰るなり妻が「おとうさん、パジャマじゃないの」と言った。今朝何を着て出かけようと箪笥をあけて覗いてみると、見慣れない長袖の服があった。肌触りがとてもよさそうだったので、これ幸いにと着て出かけたのだ。そもそも僕は真冬か真夏の服しか持っていないから、春に着る服があること事態に驚いたのだが、ベトナム人にもらったものと勝手に考えていた。ところが妻の説明によると、この冬川崎病院に検査入院したときのために買った物らしい。僕は病院に持っては行ったが着なかった。ガウンみたいな病院服をずっと着せられていたから手にとることもなかった。だから新しい服と思ったのだ。結局僕はパジャマのままで、レオマワールドに出かけ、混雑していたホテルのバイキングを食べ、チューリップを眺めたことになる。軽くて温かくて気持ちよかったが、見ている人たちは気持ち悪かったかもしれない。いやいや怖かったかな。