洞察

 僕の耳が悪いのか、向こうの喋りが悪いのかわからないが、何度か入り口で躓いた。向こうは僕の名前を確認していたみたいだが、僕はヤマト薬局ですと毎回答えた。そもそも電話を取ったときの向こうの所属も名前もわからなかった。どこの誰かは名乗ったみたいだが、結局そのどちらも聞き取れなかった。僕より年配のように感じたが、少なくともどこの誰かを最初に名乗ったのは、そのどちらも名乗らない、電話をかけたことがない世代よりはましだ。
 僕の個人名を重視した相手の用件は、僕の家族に結婚対象世代の人間がいるかどうかの質問だった。大きなお世話だから「いない」と答えると電話を切った。後で、あれは何のための電話だったのだろうと考えた。もしその対象世代の人間がいたら何を言ってくるつもりだったのだろう。いい人でも紹介するというのだろうか。結婚をしない人が増えたから、客が来ない結婚相談所の人だったのだろうか。それとも新手のオレオレ詐欺なのだろうか。いずれにせよ、招かれざる客であることは間違いない。その電話を糸口に何らかの収入を得ようとしているのだろうが、働いている時間にその手の電話に割かれる時間はもったいない。「1万人くらいかけて一人くらいは引っかかるのかなあ」と妻が言っていたが、割が合わぬようで割が合うのだろう。おそらくいわゆる客単価がべらぼうにつくのではないか。
 珍しい経験をしたが、よくあることなのではないか。まだ目にも耳にもしたことがなかったが、いずれ消費者センターあたりから注意喚起されるのではないか。どうでもいいことに膨大な人材が浪費されている。だから外国人を呼ばなければならない。本当に人手が不足しているのではなく、存在してはいけないような企業のせいで、日本人労働者が不足しているとは古賀茂明さんの言だ。目からうろこの洞察だった。