悲鳴

 見かけ上は僕の1.5倍くらいの体格だから、僕など到底挑戦すら出来ないような重いものを軽々と持って薬局の中にはいってきてくれる。僕の薬局は必ず毎朝、結構な量の漢方薬が問屋さんから届くから、彼の力強さは毎日見せつけられ、ほとんど僕など羨望の眼だ。見かけは1.5倍でも実質は10倍くらい僕よりパワフルなのではないかと思う。持って生まれた素質か、鍛えられたのか分からないが、僕といえば、筋骨の衰えとともに人生の質が落ちていくのをまざまざと実感している常日頃だ。
 そんな時に珍しく彼の弱音を聞いた。見ても分かった。今朝荷物を持ってきてカウンターの傍に置くや否や、僕がしばしばやるように腰を押さえながら背伸びをしたのだ。腰か背中の筋肉を緩めようとしているのだ。そして口からでた弱音が「腰が痛い」だった。僕が彼と同じことをしたら腰が痛いとは言わない。恐らく「腰がつぶれた」だろう。僕は彼の悲鳴を聞いた事がなかったので、原因に興味があった。そこで「どうして腰が痛いの?」と尋ねてみると今のシーズンは新米がとれて、田舎から送ってくるケースが多いそうだ。お米はほとんど30kgらしいから、それをいくつも運ぶことによって腰をやられているみたいだ。ふるさとの愛、親の愛を運ぶのは、腰の痛みに悲鳴を上げている人達なのだ。