運命

 僕が漢方薬を作らせていただいている人のほとんどは庶民だろう。背景について全く興味がないから、だろうとしか言いようがないが、だろうにも自信を持っている。ただこの方は名前を聞いた時すぐに武士の出かなと思ったし、政治家で有名な人間と同性だったのでもしやと思っていた。しかし、それで僕の態度が変るわけではない。
 インターネットで僕の薬局を見つけてくれたらしいが、本来なら僕の薬局に接触するような人ではないかもしれない。ただあまりにも不調が長く続き、藁をもつかんだのだろう。岡山県出身の人らしくて「運命を感じた」と言ってくれたが、それだけ辛かったのだろう。
 その運命は僕にはプレッシャーだったが、いつものように訴えをよき聞き漢方薬を作ったら、十分満足してもらえる状態になった。牛窓も知っていて、知っているばっかりに不安だったかもしれないが、小さな港町にだって、病む人がいればそれを治してあげようと思う人間もいる。何処でも志は同じだ。
 実は先だってその方が初めて個人的な話をしてくれた。その人の背景について話が出来るくらい親しくなったのかもしれないが、想像通り、ある企業のオーナーの家族だった。有名かどうか僕は知らないが東京だからそういった人も五万といるだろう。そしてその方はさすがにクラスが上と見えて、。テレビなどに出てくる有名な医者や病院は全部訪ねたそうだ。勿論タレントもどきの漢方医も診察を受けている。そしてその挙句が僕。
 これでは川が下流から上流に流れているみたいでありえない話だ。でも僕はその方をかなり改善できた。医師ほど病気を知らないが、人が一生で突き当たる不調など、珍しいものばかりではない。むしろありふれたトラブルに皆さん苦しんでいる。40年近く田舎で濃密に人に接していたら、薬大を留年した僕でも多くの知恵が付く。学問的な論争では勝てないが「ききゃあ、ええ」(効けば良い)