悠木千帆

 「時間ですよ」と言う番組におばあさん役で出ていた頃は確か「悠木千帆」と言う名前だった。それがいつの間にか「樹木希林」に変ったが、僕ら世代にとっては前者のほうがしっくり来る。と言うのは、彼女が何歳の時におばあさんを演じたのか分からないが「ジュリー」と言いながら沢田研二の写真を見入る姿がこっけいで、当時多くの青年や子供達が真似をしたものだった。僕は大学生だった?牛窓に帰っていたかな?よく分からないが、まだまだ青春ど真ん中あたりでよく見ていたテレビ番組だったと思う。
 僕がその番組で発見したことは、決して美人とは言えない、むしろその逆の人でも女優になれることだ。不思議かもしれないが、僕は当時、あの世界は美男美女の集まりだと思っていた。そんな中で彼女の風貌は特異だった。ただ、その演技力は、これまた特異で、他を圧倒していた。そのおかげで彼女は映画界にはなくてはならない人になり、多くの作品を盛り上げた。
 彼女があの世界になくてはならない存在になるとともに、彼女の風貌がどんどん変ってきたように思う。年齢を重ねるに従って、風格が出てきて、人間的に美しい人だなあと感じるようになった。内面だけでなく、顔つきさえも僕には美人に思えた。ガンが全身転移して5年、どのような過酷な闘病生活を続けてきたのか知らないが、ついこの前まで映画に出演していたとはなんと言う気の強さだろう。覚悟が出来ているから気持ちが楽と言っていたが、そのことが命を永らえさせてくれたのかもしれない。勝手な言い方だが、丁度よい年齢で亡くなったのではないかと思う。僕らの記憶には、名女優の「悠木千帆」しか残らないのだから。