気概

 なんて美味しいのだろう。何十年ぶりに口にした。僕の青春の味だが、当時僕は美味しいと思って食べていたのだろうか。或いは単に空腹を満たしてくれる安くて便利なものだったのだろうか。
 最近の相次ぐ天災を心配して妻が非常食用に買っていたものを今日急遽利用した。7時に仕事を終え、すぐに出かけなければならなかったので妻がカップヌードルとインスタントの焼きそばを作ってくれた。その二つを連続で食べたのだが、結構美味しかった。かつて安いといってもなかなか買うことができずに、本当は僕には高額なものだったのだが、そして今はたやすく買える値段なのだが、感じ方が今と当時は同じだったのだろうか。
 同じ学生でも、経済格差はあり、学校の傍にあるレストランなどで夕食をとる学生もいたが、僕らと同じ金のない学生もかなりいて、インスタント食品や自炊でしのいでいた。インスタント食品も買えないときは、ご飯に塩を振り水をかけて食べていた。でも若さとはすごいもので、それでもおおむね健康だった。ついには目が覚めるとゲエゲエ吐くようにはなったが、かなり長い間、米と塩と水でしのいだ。現代では健康番組が横行しているが、無茶をしても何とかなるって事は当時多くの青年が体験しているのではないか。
 室町時代でも江戸時代でも人はたくましく生き抜いたのだから「なんとかなる」くらいの気概は今の世でもあってもいいのではないかと思う。いたずらに企業に健康至上主義を吹き込まれ、不健康な精神で生きていくのは敗北だ。財布で少々の健康は買えるかもしれないが「気概」はそのたびに失われていくような気がする。