おかゆ

 ある老人が、胃の不快感を訴えてやってきた。1週間くらい胃が痛いらしい。いつどこが痛いのか尋ねてみたら、なるほど本人の言うように胃が悪いのだろう。
 この老人は医者が好きか気が弱いのか、とにかく何があってもすぐに医者にかかる。当然1週間も胃が痛いのが治らないのだから、医院にはかかっている。そのかかりようも激しくて、昨日で3日連続で医者に診て貰ったらしい。当然1週間前に胃が痛くなったときにかかって薬はもらっているのだが
、それが効かなかったからパニくっているのだ。薬を飲んでも効かないことなど一杯あるのに、この老人にはそれは受け入れられないのだろう。薬は飲めば効くのが当たり前と信じているのだ。だからこそ、効かなかった時のショックが大きいらしくて、慌てて?僕のところにやってきた。
 3日連続で医者にかかって、「先生はどう言っているの?」と尋ねると「もう何処も悪いところは無いんだから来なくていい」と言われるらしい。薬も3日間で段々強くなって、昨日出してもらったのはかなり胃酸をカットする薬だ。本来なら潰瘍あたりに使うのだろうが、先生も何とか早くかたをつけたかったのだろう。
 これだけの薬を飲みながら胃の痛みが消えないのは不思議だった。そこで老人がどのように今を耐えているのか聞いてみた。すると老人は「胃が悪いからこの3日間はおかゆにしている。それでも全然薬が効いてこん(こない)」と言った。そこで僕はおかゆについて尋ねてみた。と言うのは彼は息子さんと二人暮らしだから、どちらかが食事を作っているはずだ。と言うより僕は彼が息子さんの食事も作っていることを知っている。僕はおかゆも作ることが出来ないが彼は少なくともおかゆを作ることが出来る。尊敬の念を抱きながら「よくおかゆを作れるんじゃなあ」と言うと「先生、おかゆなんて誰だって作れるわ、わしなんかこのくらい食べる」と身振り手振りで教えてくれたのだが、その時の仕草で大きなどんぶり一杯のおかゆを食べている事が分かった。実際に尋ねてみるとやはりジェスチャーでどんぶりの山盛りを想像できるしぐさをした。これで決まり。胃が治らない原因が分かった。「食い過ぎじゃ~」
 さっそく夜から食べる量を極端に減らしてみてと頼んでいた。そして今日昼やってきて「先生の言う通りじゃった。胃が一晩で治ったわ」と嬉しそうな顔で言った。おかゆで養生をしているつもりだったらしいが、おかゆを噛む人はまずいない。飲み込むように食べるはずだ。だからおかゆでも「食べ過ぎじゃ~」