鼻血

 妻が僕を見て「おとうさん、鼻血!」と言った。自分でも珍しいことがあるものだとおもむろに鼻の穴付近を触ってみたが、血が出ているようには感じなかった。それでも妻が「もっと下」と言うから指をずらしてみると確かにぬめっとした感触があり、血が出ている事が分かった。実際に指に血液がついていた。慌てて洗面所に行って鏡を覗くと、鼻と唇の丁度真ん中辺りに1cmほどの傷があった。そこから血液が出ていたのだ。だから鼻血ではない。だとしたら何なのだ。
 実は昨夜、あまりの粋まで風呂に入っても髭をそらずに出ていた。そこで朝に電気かみそりで剃ったのだが、このかみそりが怪しい。実はこの電気かみそり、父が入院している時に、母に頼まれ買ったものだ。もう何年前になるだろう。10年以上かもしれない。父は亡くなったが、この電気かみそりはずっと僕のところにあった。でも僕はあまり電気かみそりは好きではないから、使ったことはない。昨日風呂に入れなかったのでふと思いついたのがこの電気かみそりなのだ。
 正直あまり切れない。安物だったからか、古いからかわからないが、とにかく気持ちよくない。最低限このくらいでいいかと言うあたりで早々にやめた。
きれいになった感覚はなかったが、さすがに短くはなったと思う。そうして台所に行った瞬間に妻に鼻血と言われたのだ。こんなことってあるのだろうか。電気かみそりで皮膚を削り出血するってことが。深剃りが出来なくて僕は電気かみそりを使わないのだが、十分深く剃れるではないか。身まで削っている。古いのか、使い方がまずいのか、何かの祟りか分からないが、珍しいことだと思う。
 身を削る電気かみそり、ホラー映画ではないが、もう恐ろしくて使えない。