気配

 「中の下くらいです」こんなことを言われたら、多くの人は成績のことを思い浮かべるだろうが、成績ではない。僕が「自分が綾瀬はるかみたいな美人だから、周りの人が覗き込むのではないの」と尋ねた質問に対する答えだ。事実か謙遜かはさておいて、電話でいつも心地よくさせてくれる若い女性だから、心美人であることには違いない。
 後2割改善したら完治だと自己評価しているこの女性は、電車なんかで覗きこまれるという最後の壁の前で立ち止まっている。ただし、僕はそれが臭いのせいで覗き込まれるのではないことはすぐに分かった。話しているうちに、彼女は覗き込まれる相手を一度も見ていない。恐らく毎回電車に乗るたびに同じような経験をしているのに、一度も覗きこむ人を実際には見ていない。彼女が覗き込むというのは全て「気配」なのだ。気配は事実とは違って、全くの主観だ、だから都合のよいようにそれを事実化しようとする。自分の思う結論に、或いは前提に導く道具にする。
 そのことを彼女に話すと分かってくれたみたいだが、実際明日からの現場でどう彼女が対処するか分からない。もし勇気を持って周りを見回して、誰も覗き込んだりしていないことが確認されれば一瞬にして彼女はガス漏れから解放される。アホノミクスをはじめ多くの政治屋や高級疫人は別として、普通の庶民が、そんな悪意に満ちたことをするはずがない。行き交う人の多くは懸命に毎日必死で生きている名も無き庶民なのだ。