紙一重

 短期の応援部隊の為に、面白いイベントはないかと探していたら、香川県での「BLACK BOTTOM BRASS BAND ~ゲスト:綾戸智恵~」のコンサートを見つけた。女性は紙おむつのコマーシャルでよく見かけるから分かるが、バンドは初耳だった。ユーチューブで視聴してみるとジャズバンドだった。これで決まり。僕自身が楽しむことが出来る。
 その作業をしているときに丁度ある男性が入ってきた。無類のジャズ好きだ。風貌とは似合わないがその好きさは有名だ。本来なら僕は彼を誘うべきだが、誘えない。それは彼自身に原因がある。酒と博打で身を滅ぼして、法務省の宿にも2回宿泊した人で、そのことをあまり気に止めない僕は、以前と変わらない付き合いをしている数少ない人間だ。宿から出てきて、もう2度と行きたくないと言いながら、最近また宿に入ったと同じようなことを繰り返している。酒代欲しさに小額の金を借り歩いているみたいだ。本来お金と言うものは稼いだ範囲で使うものだが、その常識は無い。ほとんど病気だと思うが、10分後の酒の快感のために、嘘を並べて金を借りる。
 本来なら、チケットは勿論、フェリー代、船上で飲むビール代、果ては昼ご飯さえ僕は喜んで出し、喜んでもらう。ところが上記の理由で誘うことをしない。かの国の女性達と一緒に聴きに行くというと、羨ましそうな顔をするが、行きたいとは言わない。そこは彼に残された最後のプライドが邪魔をするのだろう。決して嫌いなタイプではない、むしろ好きなタイプの幼馴染だが、手を差し伸べることすら躊躇われるくらい僕の信頼をなくした。何度も宿から出てきた後、楽しい思いをさせてあげたが、その結果がまたもや酒と博打では空しさだけが残る。何度も期待と失望を繰り返したが、もうそろそろ限界だ。稼いだ範囲で暮らす。こんな単純なことすら出来ない人が意外と多いのかもしれない。やけと度胸は紙一重だ。