大罪人

 もう数年皮膚科に通っているのに、何を今更と思うが、聞かれた事には答える。頭部に一杯ぶつぶつが出ていて、汚いビーズを頭に撒き散らしているように見える。「これはなんじゃろうかな?」と言う質問だから一言で「酒のせいじゃ」と答えた。数軒の皮膚科を気まぐれにはしごしているみたいだが、医者によって言うことが違う。説明が違うし、色々貰っている薬の効果も無いわで、しばしば医者の悪口を言う。おまけに、受付のスタッフの悪口なども口から出てきて、およそ心地よい言葉は出てこない。
 久しぶりに僕を指名したから応対したのだが、皮膚病を見せるために帽子を脱いだら、毛髪はほとんどなく、ご法度の裏街道を歩いている人物のように見える。この先生がこう言った。あの先生はこう言ったと、いつものように始まったから、「〇〇さん、そんな怖い顔をして、医者に色々文句を言うから怖がって、本当のことを言ってくれないんじゃが。こんな皮膚病、何を飲んでも、何を塗っても治るもんか。医者もそんなこと分かっとるわ。でもこの人うるさいから、治る様なことを言ったり薬をくれるんじゃが。こんなもの酒をやめん限り、治るもんか。もう諦められ。病院に行くのが無駄じゃ!」
 恐らく初めてストレートに言われたのだと思う。腑に落ちたのか、不思議なほど納得して帰って言った。もし僕が病院の門前薬局だったら、好まれるように心地よい言葉を並べて「客」にする。でも僕は病院の下請けでも無いし、処方箋を持ってきてもらいたくも無い。だから何も考えずに、その皮膚病を見ての感想を述べただけだ。漢方薬だったら手はあるが、自分から希望しない人に漢方薬を勧めたりしない。
 どんどんこれから薬局を発展させようなんて思える年でも無いから気楽なものだ。こんな余裕はなかった。体力の衰えに比例して欲望も衰えるから旨くできているものだ。これが反比例の年寄りが世の中で悪の限りを尽くしている。アホノミクスを筆頭に打ち首獄門レベルの大罪人が目白押しだ。