挑戦

 もう何年になるのだろう、今と同じようなことを、尼崎の街でやっていた。漢方の勉強会の会場は、新幹線で神戸まで行って、そこからJRで30分近くかかったような記憶があるが、本当はもっと近いかもしれない。腰痛を押して出かけることが多かったから、時間は長く距離は遠く感じられたのかもしれない。じっと腰掛けることが辛かったから、電車から降りて公園を見つけ、ベンチに横になり、ある腰の筋肉を緩める運動をして再び歩き出す。そうしてやっと辿り着いても講義を聞いている間に腰に鉛をぶち込まれたようになる。そっと会場を抜け出し、又ソファーを見つけ同じ運動をする。そうして何とか無事帰ってくる。そんなリスクを犯してまで知識を得たいと思っていた。たった一つの知識でも価値があった。2時間受講して数秒未知の知識とめぐり合えばそれで十分報われた。
 今日は薬局も休みなのだが、漢方薬の注文が結構来ていて、結局朝の11時から夕方4時まで漢方薬を作り続けた。ただ、尼崎ではないが、このところ僕の体力、いや筋力を酷使して何とか注文をさばいているから、例の運動を欠かせない。1時間くらい薬を作るために立っていると背中の筋肉が悲鳴を上げる。そのままにしておくと必ず急激に炎症を起こし立っておれなくなる。スタッフに迷惑をかけるからそれを避けるのは僕にとっては至上命題なのだが、時にダウンする。
 明日、かの国の帰国組みを連れて香川県を西から東へと車で走る。僕しか運転をすることが出来ないから、途中で背中を患ったらアウトだ。そのために何度も何度も運動を繰り返しているが、背中の鉛はなかなか溶けない。このまま棒のような背中で運転をしなければならないかと思うと不安だ。同じ状態で尼崎まで出かけた過去のことを考えれば、明日もきっと無事帰ってこれるとは思うが、年齢は一回り大きくなっている。普通に行動することがこんなに大変で、こんなに心配しなければならないのかと自分でも呆れるが、これは人としての宿命だ。誰も避けては通れない。心も体も動かして動かして治すのは僕の持論だが、結構度胸はいる。ただ安静に安全地帯に逃げ込んでは人生ではない。当たって砕けるほど度胸はないが、当たってこぶを作るくらいなら挑戦する。